an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『二笑亭綺譚―50年目の再訪記』式場隆三郎・赤瀬川原平・岸武臣・藤森 照信・式場 隆成

二笑亭。一言で言ってしまえば昭和の初期に、ある精神病者によって作られた建築物である。
人体に模して作られたと推測されるグロテスクな外観、のぼれない梯子、あかない扉、ものを入れられないほど浅い押入れ、斜面になった棚、和洋混合風呂、黒板に残る意味不明の計算式・・・
この本は、前代未聞の怪建築を、高名な精神科医式場隆三郎が紹介し、なんとあの柳宗悦がコメントを寄せ、それをなんと50年後に藤森照信が完全な姿(模型)で再建し、赤瀬川原平がインスパイアされた短編小説を書いちゃった、という「なんと」づくしの、二笑亭に憑かれた人びとの記録である。

前半部では、写真や設計図を掲載してあらゆる部分を詳細に解説し、さらには大真面目に「芸術としての二笑亭」の考察まで発展していくのだが、私は不謹慎ながら、その主人にファニィな空気を感じずにはいられなかった。目的不明の世界一周旅行の強行しかり、擂木とか天秤とか岡持なんかを大小たくさん作って近所に配ったり、数ある奇行エピソードは狂気というより、むしろ酔狂。芸術というより、むしろ単なる変わり者の道楽(情熱的だが!)・・・のような気が。
さらに後半部「50年目の再訪記」では、当時を知る人のおぼろげな記憶と断片的資料を手がかりに建築プロセスを探り、ほとんど暗号解読のごとき作業を経て、50分の1模型が堂々完成するのである。(全貌は思いのほか立派である)
最後には「二笑亭の痕跡」と題して現代建築に至る昭和モダニズム、茶室との共通性へと論は展開されるのだ。もう読み応え充分、真面目に建築を学んでいる方にもおすすめできます。
(2007.4.28記)


>追記
昔はおもしろい人が多かったんだなあ、と思ったりします。
今の人は、こんなふうに“壮大に無駄なこと”はしない。
この式場隆三郎という人もいろんな逸話があるらしく、興味をそそれられる人物の1人です。