an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

外国人が見た日本、日本人が見た外国

ゆる〜い異文化体験エッセイが人気の昨今ですが、ちょっと変わり種2冊を紹介しよう。どちらも素敵な表紙だ。


◆『英国一家、日本を食べる』マイケル・ブース著◆

フード・ジャーナリストである著者が、家族を引き連れて日本縦断食べ歩き旅行にやってきた。
家族連れならではのハプニングを含め、英国流おとぼけジョークが随所で効いていて、いやはや予想以上におもしろい本だった。
巨大なトーキョー・シティに呆然とたたずみ、北海道でラーメンに感激し、大阪で幼い息子たちと焼き鳥を楽しみ、沖縄料理で長寿を考察し、SMAPのお料理ショーに感心する・・・時には京都の高級料亭に招待されたりもするけれど、基本的にはカジュアルスタイルで「日本食のフシギ」にどんどん飛び込んでいく。
彼の持つ日本への違和感や疑問や賞賛はジャーナリストらしく正確な言葉で具体的に示され、「ほほう、そうきたか」と呻らされること多々あり、しかもコミカルで楽しい読み物なので、ぜひお気軽に手に取ってみてください。

*追記 
この本はベストセラーになり続編まで!(パクリ本も見た!)

◆『ヨーロッパぶらりぶらり』山下清

山下清の文章かあ・・・なんかそういう拙い感じの作品が好きな人もいるけど、私は別になあ。アール・ブリュットもあんま好きじゃないし・・・と読んでもいないのに思っていましたが。
いや、いいですわ山下清。読ませる。
旅行中の走り書きメモを時系列に並べたようなものではなくて(←そういうものかと思っていた)、思いのほかまとまった、立派な旅行記に仕上がっている。(原文は句読点も改行もカッコも一切ない悪夢的なものらしいが)
子供のように率直な微笑ましい感想があるかと思えば、妙に理屈っぽいこだわりを連ねたりもする。奇を衒わない文章っていいな、と感じる。
石畳の街並みを描いた細密スケッチは感嘆のため息が出る見事さだ。

本中に頻繁に登場する「先生」というのは式場隆三郎博士のことなのだが(ここでも取り上げました ⇒ http://d.hatena.ne.jp/yoneyumi0919/20111110/p7)、この二人の間で交わされる会話がこれまたいい味なのだ。
山下清は見知らぬ土地に興奮して、「窓を開けていいですか」「さわってもいいですか」的なまだるっこしい質問を何度も繰り返すのだけど、その度にきちんきちんと言い含め「こうなったら清も困るだろう。だからこうするのだ。」と丁寧な説明を惜しまない。そこに注目した解説の赤瀬川原平の言葉だ。

山下清の手記の中に出てくる式場先生が、何だかすごく実感がある。ヨーロッパ旅行を全部随行して、山下清にいろいろ注意というか、ごく当たり前のことを教えるんだけど、その当たり前の感じが凄くいい。常識っていいなあ、と思えるのだ。

最後は本文より、私の好きなワンシーンで締めくくろう。

式場先生が「これは山下清ですが、こんどの旅行のマスコットです」というので
「マスコットというのはなんですか」ときくと「たからものという意味だよ」というので
たからものならもっと大事にしてくれてもいいがなあと考えていると、領事かんの人が
「山下さん、ヨーロッパにきてなにかほしいものがありましたか」といわれた。
あまりきゅうだったし、まだヨーロッパはさっぱりみていないので、
みていないものはなにがほしいかきめることができない。

山下清『ヨーロッパぶらりぶらり』より)

*追記
赤瀬川原平さんのご冥福をお祈りいたします。


(2013年11年1日記)