an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『暗殺百美人』飯島 耕一

詩人が書いた小説、っていうだけでなんだか怯んでしまうというのに、よりにもよってシュルレアリズムだ。超現実だ。手術台にこうもり傘がどうかした、とかいうやつだ。これはいけない。しかし、ドゥマゴ賞受賞作品(選者:中村真一郎!)にして、安原顕氏大絶賛とあれば無視できない。さて・・・。

「東洋のこの島国の、歴史も人間の体温も反逆心も一切剥奪されたかのような三十四歳の青年」の“自分探し物語”といえなくもないが、あらすじを説明するのは無意味だ。 詩人独特の、硬質でスタイリッシュな文体による動乱期を疾走する暗殺者、現れては消えるファム・ファタール、不可解な言動を繰り返す面妖な登場人物たち、それらに眩惑されて変貌してゆく主人公・・・その鮮烈なイメージにうまくシンクロできれば、なかなか刺激的な世界を楽しむ事ができるだろう。
それは計算しつくして書かれたものであるにもかかわらず、あざとさやハッタリが全く感じられない。さすがだな、と思う。
・・・しかし、わたしにとっては実に、実に集中力を要する作品であった。時間もかかった。普段使っていない感覚を揺り起こすのがおっくうだったのかもしれない。
多感な若人に(多感な中年でももちろんよろしい)、ぜひ感想を聞かせてほしいものだ。

今思いついたが、これは映画にしてみるとちょっと面白いものになりそうな気がする。(脚本がうまくいけばだが・・・)監督はD・リンチ、もしくは鈴木清順あたりで。
(2007.4.9記)


>追記
いやはや読みにくい小説だったなあ、これは。
作家の想像力についていくのって体力がいります・・・