an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

青年は荒野をめざす

映画『イントゥ・ザ・ワイルド』を観る。

      

東部のいいとこのボンボンが、何を思ったか突然何もかもかなぐり捨ててアメリカ中を放浪し様々な人と出会い、そしてアラスカの荒野でたったひとり野垂れ死にするまでを描いた作品である・・・が。・・・まいった。泣いた。
監督はショーン・ペン。その昔、あのマドンナとの挙式の日にパパラッチを乗せて近づこうとするヘリコプターに向かって銃をブッ放したというエピソードに代表されるように、暴力沙汰でしばしば警察のご厄介になる狂犬みたいな男、というイメージしかないという方もおられるかもしれない。しかしわれわれ映画好きの間では、齢五十の声をきこうという現在、俳優としてますますアブラがのり(イーストウッドの『ミスティック・リバー』でオスカーをとったのは記憶に新しいところです)、また『インディアン・ランナー』『ブレッジ』など骨太で苦みばしった映画を作るなかなか力量のある監督、ということで通っているのである(たぶん)。

この作品はジョン・クラカワーのノンフィクション『荒野へ』が原作である。つまり主人公クリスは実在した人物。
・・・もともとアメリカは「移動する人々」が作り上げてきた国だ。古くはジャック・ロンドン、近くはジャック・ケルアックというような人たちに感化されて、「Into the Wild」へ「On the Road」する連中が絶えないというお国柄、放浪スピリッツが伝統として定着しているとでも言おうか。クリスもそんな青年の1人だった。
そして、こういう奴らはたいてい言うこともやることも極端で、後先のことを考えず、残された人の気持ちを顧みることなく、最悪の場合、無謀さゆえに命を落とすのである。
一体何のために?中庸とか、ほどほどとか、バランスとかいったものを欠いた行動には最初は全く共感できないし、鼻もちならない傲慢ささえ感じる。・・・しかし物語がすすむにつれて家族内の耐えがたい葛藤や、何人かの文学者に裏付けされた彼なりの哲学に心動かされ、「自分が何者であるのか、何ができるのか、何を求めているのか」をひたむきに探究する姿に圧倒されてしまうのである。
求めてやまない自由と真実を、一瞬つかんだかと思われた。しかしその代償はあまりに大きく、痛い。

雄大な自然を余すところなくとらえた映像と見事に選曲された音楽の数々、ショーン・ペン渾身の一作を、ぜひともスクリーンで観ていただきたいと思います。今なら間にあいます!!(・・・いやちょっと遅いか?)
  

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ドゥマゴ文学賞」、というのをご存じだろうか。
ドゥマゴってくらいだから本家本元はもちろんフランスの賞であるが(・・・その権威がいかほどのものか、受賞者がどういった人々か云々は全然知りません・・・)、こちらでは
Bunkamuraという東急グループの組織が主催している賞である。
Bunkamuraといえば、渋谷にコンサートホールや映画館やおしゃれな書店やカフェを備えたたいそう立派な建物がある。私も2度ばかり行ったことがあるのだが、小腹がすいてふらっと入った館内カフェのサンドイッチがものすごく高くて腰を抜かしかけたとか、コンサート後の余韻にひたっていたら帰りの夜行バスに乗り遅れそうになって八重洲口で顔面蒼白、とかいう田舎者ならではのしょっぱい思い出しかなかったりするのだが、まあそれはさておき。
毎年変わる選考委員1人が作品を選ぶというユニークさに加え、選考者・受賞者ともに私好みなことが多く、ちょっと気になる賞なのだ。
      (↓こんな感じの方々です)
http://www.bunkamura.co.jp/bungaku/winners/winnerslist.html

で、今年の受賞者なんですが。あはは、暴力温泉芸者こと中原昌也なのだ。

・・・ええと。音楽活動と映画評論の片手間に書いているような小説を読むほどこちらもヒマじゃありませんの。聞くところによると、島田雅彦とか石田衣良とかいった優男系の物書きが心の底から嫌いみたいであちこちで噛みついておられるとか。これまた狂犬みたいな方でいらっしゃるのね。・・・以上の2点が私の彼に対する認識なのである。
選者・高橋源一郎の選んだ受賞作『中原昌也 作業日誌 2004→2007』というのが・・・ちょっとでも金が入るとCD・DVD・書籍を買いまくり、すっからかんになったら鬱になって呻吟しつつモノを書き、小金が入ればさらに際限なく買い、また金がないから書かねばならぬとグチと泣き言・・・こんな記録が延々繰り返されるのだという。どうやらその買いっぷりが正気の沙汰でないらしいのである。鬼気迫っているらしいのである。(しかも見たことも聞いたこともないようなものばかり買ってるらしいぞ。どんなマニアや!)
唾棄すべきシロモノか、それとも平成の無頼派降臨か。・・・ものすごく気になる。

(2008年10月13日記)