an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

名古屋、桜桃

所用あり、名古屋で一泊。
午前中にさっさと用が済んでしまったので、まあせっかくだからと街中へ繰り出したものの、かつて友人が住んでいたこともあってランドマーク的な場所にはすでに行っているし、興味をひかれる展覧会や(・・・タッチの差で棟方志功回顧展が見られず)季節の花などめぼしいものも見当たらない。
食べものや言葉や地域の習慣など独自の文化で知られる名古屋だが、町歩きを楽しむようなところではない・・・ような気がする。

と、いうわけで・・・・・・本屋さんと映画館に行ってきました。
そんなもん、どこにでもあるやんかーと思われたであろうが、そこはもちろんぬかりなく「名古屋ならでは」のところに行ってきたのである。
まずは、名古屋の読書家で知らぬ人はいないという(←ホンマか?)ちくさ正文館書店。思いのほか広く明るい店内には、すばらしいセレクト本がズラリ。あれこれ目移りする中、購入したのがこちら。

        

表紙のイラストも、小ぶりのサイズも愛らしい蝦名則著『えびな書店店主の記』。
本作はそのタイトルどおり、おもに美術古書を扱う「えびな書店」店主によるエッセイである。もちろん古本屋さんらしく仕入れや即売展のエピソード、古書目録の要約、忘れがたい人との出会いと別れ・・・なども書かれているが、クラシック音楽ルネサンス絵画、小村雪岱鏑木清方、「会津八一とリヒテル」「青山二郎の装幀」などの章もみえ、いわゆる古典、なかでもハイカルチャーの話題が中心となっている。
なので、私のような浅学には少々とっつきにくいかとも思ったが、いざ読み始めると、いささかも気取ったところがなく(章ごとにつつましく添えられる挿絵も好ましい)、絵や音楽が好きでたまらないという溢れんばかりの想いが、その知的で落ちついた語り口からうっすらとにじみ出るようで、次々と登場する知らない名前に困惑しつつも、あっという間にするすると読了してしまった。
イタリアの画家ピエロ・デッラ・フランチェスカの絵をすべて見るためヨーロッパ中を東奔西走したり、バイロイト音楽祭(←世界中のファン垂涎のワーグナー祭り)へ行って足で床を踏み鳴らし「生まれてはじめての「ブー!」を叫んだ」り、ベルリン動物園に行って小グマのクヌートに大声で呼びかけたり(←これが一番うらやましいぜ・・・)、実に楽しそうに駆けまわる店主。・・・それにしても、こんなにしょっちゅう外国へ出かけて、けっこう優雅なご身分だなあと思っていたら、なんのなんの。本作を締めくくる、奥様によるこんな追い書きに思わず苦笑。

長い赤貧状態が続いた。商売の経験もないまま本屋になってからも生活ができるのかとても不安だった。赤貧からただの貧乏に格上げ?はしたが、暮らしぶりは大して変わらなかった。ずいぶん後になって知ったことだが、好きな骨董品を購入し続け、女房子供にはぼろをまとわせていたらしい。

・・・率直な書きぶりからも聡明さが感じられるこの奥様に、「夫は出版社時代も古本屋になってからも本当によく働いた。」とねぎらってもらい、「共通の楽しみである旅をこれから先も続けたいものである。」と言わせる店主・蝦名則さん、これはもしかして相当にいい男なんじゃないかと思うのだが、さてどうだろう。


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ちくさ正文館書店からほど近く、路地っぽい道筋を突き進み、「耳かき専科〜癒しの空間」「人妻スイーツ 土曜日は昼12:00から♪」などという看板の前を颯爽と通りすぎた雑居ビルの2階に、それはそれは私好みのオンボロ(失礼!)な映画館、名古屋シネマテークがある。
その日はたまたま昨年亡くなったクロード・シャブロル監督の特集がかかっていて、近作『引き裂かれた女』を観ることにする。


      


いかにも老獪な初老の作家とボンクラで情緒不安定なイケメンとの間で不毛な恋愛に翻弄される女性を描いた物語・・・などといってしまうとなんとなく先が読めてつまらなさそうなんだけど、ところがこれが、先が読めるどころかやたらと引っかかりの多い、すんなり消化できない異物感のあるシロモノで・・・はい、けっこうおもしろく観てしまいました。
上流社交クラブのようなところが実は乱交クラブ(!)だったり、登場人物の一人である年増の女編集者がオッパイのひとつも見せるでもないのにただごとでないほどエロかったり、まったくフランス爺の、老いたりといえエロティシズムの追求に飽かないその姿勢と、「女」に対する悪意すれすれの辛辣さにすっかり感心して思わず腕組みをしてううむ、と唸ってしまった次第。
文字通り女が“引き裂かれる”、人を食ったラストシーンと、淡々としたムードの中にさりげなく、だがシッカリとエロスの刻印が仕込まれた本作、興味のある方はぜひ。


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北の友人からの贈りもの、あまりに美しいのでパチリと1枚。


      


      


こんなのが鈴なりの木を一度見てみたいなあ・・・



(2011年7月7日記)