an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

写真にひそむ物語−その①

ひょいと気まぐれに手に取った本がおもしろかった時の喜びは格別であるが、著者や作中の登場人物が、思いのほか魅力的な風貌であったことを知らしめる写真をどこかの片隅で見つけると、これまたじんわりとうれしくなる。
昔の写真は意図せずして「実相とはやや異なる絵姿」になることがままあるわけだが(中原中也のあの写真なんかはその最たるものかも・・・)、そこからまたささやかな物語や想像力が膨らんでゆくような気さえする。顔の力はすごい。

・・・で、今回のレビューは少し趣向を変えてみまして、ここ最近、私が軽くインパクトを受けた写真を添えて紹介してみようと思う。もし興味がおありでしたらお付き合いください。


◆『近代日本の文学史伊藤整


      


      

詩人であり小説家であり翻訳家であり評論家でもある伊藤整のことは、とても偉い先生という認識(←中学生並みの認識だな・・・汗)に加え、たいそう早熟でごくごく若い頃から性に悩み、長じてはチャタレイ夫人裁判、小説『氾濫』『変容』・・・生涯にわたって性愛について深く考え続けた人という一面もあって興味が尽きない人物の1人なのだけれど、やはりここはなんといっても大作『日本文壇史』に注目したい私だ。
新しいものを生み出そうとする作家たちの活躍がいきいきと描かれ、すこぶる付きにおもしろいと評判の明治文学群像史だが、文庫で18巻というボリューム、こりゃ迂闊に手が出せない。ううむと唸っていたところ、その簡易版である本書が登場したのだ。日本近代文学黎明期の明治から昭和にかけての激動期を舞台に、興っては衰退してゆく文芸思潮と様々な人物たちを交錯させ、注目すべきエピソードを丹念に拾い、文学史に絢爛と輝く作品を網羅するべくまさに縦横無尽の筆さばき、著者も読者も勢いにのって一気に読める一品だ。
文学史は、よりひろいところでものを見つめたいと願う、すべての人のものなのだ。(中略)伊藤整の文章だからこそ、読者は、さまざまなものを見ることができるのだ。みちたりた心地になれるのだと思う。」とは巻末エッセイを書いた荒川洋治の言葉である。

ちなみにこの本を出したのは夏葉社という近頃流行り(?)の“1人出版社”で、これまでにバーナード・マラマッド『レンブラントの帽子』、関口良雄『昔日の客』、上林暁『星を撒いた街』などなど、シッブい素材をそれは美しい装丁で仕上げることで有名で(ちょっと高価なのだが・・・いつか全部そろえたい!)、今後も大注目の出版社なのだ。 
http://natsuhasha.com/

そして写真は著者の伊藤整ですが、なんといっても「そこらへんにいそうな本好きのおっちゃん風」、ご立派感皆無なのがいいですね。
たとえば、小林秀雄なんかだとこんな写真は撮らせないような気がするよ(笑)。
夢中で読みふけっているところへハラリと吸い殻が本に散り、はっと我に返る様子を想像したり、「堂々くわえ煙草」ができたおおらかな時代を振りかえり隔世の感に浸るのもまた一興、それやこれやが実に味わい深いと思うわけでございます。



(2012年11月23日記)