an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『酒肴酒』吉田健一

酒肴酒 (光文社文庫)

酒肴酒 (光文社文庫)

生まれと育ちのよさは言うまでもなく、英国仕込のジェントルマン、粋でダンディな才人・・・なんて聞くと、すわ白洲次郎のごとき問答無用の男前参上か!?と思ってしまうのが人情というもの。・・・全然違うのである(笑)。老年期の写真しか拝見していないのでアンフェアかもしれないが、何だか形容しがたいおかしな顔をしている。しかも大酒飲みだ。一体どんな文章を書く人なのやら以前から興味があった。
文芸批評や翻訳ものは手に負えないだろうから、思いつくまま気の向くまま、国内外のうまいもの、うまい酒について書かれた本書を選んでみた。
句読点でずるずる語句をつなげ(翻訳口調ですね)うねうねとのたくったようなその文体にまず面食らってしまう。悪文、の類に入ると思う。しかしこれが不思議なもので、噛めば噛むほど、読めば読むほどじわじわした旨みを醸し出す。一体それは何だ、というような珍しい肴(お菓子も!)がたくさん紹介されているのも楽しいし、スコットランドのウィスキーの描写などめちゃくちゃうまそうだ。(ウィスキー色の河!)
大いに食べて飲んで、人生を楽しんだ人だったようだが、ちょっとシニカルで人を煙に巻くような気配が感じられるのが乙な味付けとなっている。近づいてきたのでこちらが捕らえようとするとヒラリと身をかわす、老獪な猫を思わせるような。

私はやむなくそうしたけれど、通勤電車のお伴にはおすすめできない。米どころ(すなわち酒どころ)に一人電車でゆるゆる行く旅に、ぜひ。
(2007.3.11記)


>追記
吉田健一、今でも若い人を中心に人気ありますねえ。
何か小説を読んでみたいのだけど。