an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

本の本

“本について書かれた本”はわたくしの大好物のひとつ。
どちらも装幀に携わる方の著作ということで見栄えもよし、一目見て欲しくなった。

◆画家であり、同人雑誌「sumus」の編集者としても知られる林哲夫『古本スケッチ帳』
◆デザイナー・平野甲賀と作家・黒川創の対談集『ブックデザインの構想』

林さんのものは装幀の話題だけでなく、安野光雅風の透明感のあるすてきなデッサン付きでフランス滞在時の笑えるエピソードを連ね、フランス文学者に言及し、恩師の追憶を語り、詩人でもあり装幀家でもあった吉岡実の色彩感覚に感嘆し、淀川長治の超モダンな姉の話、洲之内徹が手掛けた雑誌について、書肆ユリイカのこと、忘れられた詩人たち、「書物と印」・・・いやはや実に盛りだくさんの内容となっている。
小林秀雄訳・佐野繁次郎装幀のランボー『地獄の季節』(この本はモダンで渋い美感を持つ装幀含め、多くの人に衝撃を与えたそう)について、こんなふうに記されている。

筆者などがいま読み返してみると、実際これをランボー論と呼んでいいのかどうかすら迷うほど、強烈なべらんめい口調である。
どちらかといえば、その熱っぽく屈伸した序文よりも、やや硬いけれども率直な翻訳のほうを評価したい気がする。
たとえば冒頭のフラーズはこう訳されている。
「嘗ては、若し俺の記憶が確かならば、俺の生活は祭であつた、あらゆる心はひらき、あらゆる酒は流れた祭であつた。」

ここで著者は粟津則雄訳の「おれの昔の生活は饗宴だった。」を並べて、「祭」と訳したのは正確で調子もいいが、ちょっと大胆すぎるかも・・・としているが、確かに「饗宴」のほうがステキ(笑)。フランス文学に明るい著者ならではのコメントだ。
では堀口大學金子光晴はどんなふうに訳していたのだろう。
それにしても・・・ランボーの詩ってやっぱカッコいいっすね。

*フランスの香り漂う、林哲夫さんの素敵なHPはこちら*
http://sumus.exblog.jp/


甲賀さん&黒川さんの本は「チェコのイラストレーションからチラシ・描き文字まで」とサブタイトルが付いており、チャペックとラダ、二人のヨゼフを中心としたチェコのイラストについての話がたいへん興味深かった。カッチリした線で描かれた明快かつユーモラスなもので、それらが大正期の日本文化に与えた影響などを語る。
その場で視聴していた鶴見俊輔さんが飛び入り参加、「チェコから発信された第一次大戦の文化、そこから出てくる漫画が現れる。長谷川四郎あたりは、もっとちゃんと影響うけてるでしょう。チェコから真っすぐ日本にむかってボールは投げられた。それで、受けとめる人間が日本にいたんですね。」幼少期の記憶を鮮明にすらすらと語るさまは圧巻で、主役の二人も口あんぐり状態だったんじゃないかな(笑)。

そして本書は甲賀さんが手掛けた装幀もたっぷり掲載され、あらゆる角度から「コウガグロテスク」の秘密に迫ります。




(2012年4月4日記)