「カテイノジジョウはやめて」と泣いてすがった小さな息子(伸三)は鬱屈した感情を抱えて育ち(当然でしょう)、後年「愛は悪」というタイトルの本を書いた。二つ年下の妹(マヤ)は言葉を失った。・・・人生において、たいていのことはやり直すことや修復することができると思うけれど、こんなふうにとりかえしのつかない傷を負うことがある。愛すべき近しい人間の手によって。
このエッセイは一人の若い、わりに平凡な女の子が日常を綴ったものにすぎないけれど、このような背景を知っていたら俄かに味わいが変わると思う。そのまっすぐな目線に、しみじみと安堵感をおぼえる。あちこちから血をふいていた『死の棘』の家族は、長い時間をかけてゆるやかに再生し、伸三さんは潮田登久子さんというこの上もないパートナーを得て、荒涼とした地に一輪のつつましい花を咲かせた。そんなイメージ。
「まぁ〜、まほちゃん立派になって・・・。それにしてもお父さんそっくりのお顔!」・・・などと島尾家の婆やのような気分にひたりたい私みたいな方は購入するもよし(写真多数掲載されてます)、立読みでも小一時間でいける(笑)。
(2007.7.12記)
>追記
まほちゃんパパ・伸三さんは著作でおおっぴらに奥様との関係をのろけており、その無邪気さがお子ちゃま並みの微笑ましさ。「好きで好きでたまらない」なんて、ホントのことでもなかなか言えないよね。
(そして彼は絵もうまいのです。多才!)