an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『刑務所の中』花輪和一

まさか写真をバシバシ撮ったわけなかろうから、記憶力だけで書いたのでしょう。自分の体験とはいえ、こうなると表現者の「業」を感じてしまいます。
劇画チックで、線の一本一本に情念が立ちこめているような、いかがわしいムードむんむんの作風ですので、苦手な人もいるでしょう。しかし、そのタッチで延々と食事メニューを羅列し、その意外な豪華さに困惑したり、作業中での異様なまでの行動制限をギャグにするそのセンス!読み出したらやめられません。
刑務所生活なんていうと悔恨と絶望の日々・・・なはずですが、そうとばかりもいっていられない。その無機質な拘束の日々の中でのちょっとした生活感のゆがみ、人間関係のひずみ、そういうものをユーモアにしている異色の漫画です。でもこの人、お約束の「一発やりてぇ〜」的なにおいがなく、家族を想う泣きのシーンもなく、人とのつながりに対して淡白で無頓着みたいです。そのせいか、後味がよろしい。
そう簡単には体験できない貴重な記録といえます。一度こっそりのぞいてみてはいかがでしょう。
(2006.3.12記)


>追記
これは映画化もされましたが、原作よりほのぼのタッチになっていました。
この人のマンガももっと読んでみたいんだよなあ。