an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『活字狂想曲』倉阪鬼一郎

世に溢れる印刷物の誤植を撲滅すべく、今日も明日も朝も昼も夜も戦う最強の赤ペン先生、それが校正の人。時には福田恆存に「国語を語る縁の下の力持ち」と言われたり、村上龍宮沢章夫に褒め称えられたりもするけれど、それは比較的恵まれた出版社の校正者であって、著者は商業印刷物、社内報、郷土史、カレンダー、保険の約款、入試問題etc・・・を一手に引き受ける印刷会社の校正者なのだった。完璧で当たり前、一文字の見落としが地獄への道。どんなおもしろいハプニングを聞かせてもらえるか想像できようというものである。
俄かには信じられないような校正をめぐる爆笑エピソードから、会社の中に何気ない顔して生息している「たまらん人々」(by中島らも)がおりなす悲喜劇の数々。「そうそう、こんなヤツおるおる!ああいやだいやだ。QC活動!そうそう、あれは最悪!」と大いに楽しみ、共感し、握手を求めたい気分になった。著者は自称「重度の現実不適応者」だそうだから、私にもその気があるのかもしれませぬ。

私は某水回りメーカーで、エラッそーな土建屋や施主に連日呼びつけられ、夜中も休日も働いていた営業を10年身近で見てきて「・・・これはいつか死人が出るかもな・・・」と遠い目をしつつ思ったものだが、そんな私をのけぞらせた印刷業界の現場の凄まじさもとくとご覧いただきたい。労働基準法?何それ?
いつ会社を辞めようかと悶々としている貴方に強力におすすめしたい一作である。
ラストの爽快なるカタストロフィに少しばかり気分が軽くなるはずだから。
(2007・2.25記)


>追記
いつぞや奥様の料理の献立を細々と記録したHPを発見して驚いたことがあります。
やっぱりマメなのね。