◆『近代の奈落』宮崎学◆
- 作者: 宮崎学
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2005/12
- メディア: 文庫
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週刊朝日の一件がまだ記憶に新しいように、この領域は非常に慎重に取り扱う必要がある。
読み始めた当初は、著者が著者だけに果たしてどこまで挑発的なことをいっているのやら・・みたいな、下世話な好奇心が働いていたことを白状しよう。
ところがだ。舞台となるその土地に古く根付く精神風土を地道な取材でわかりやすく解説していて、合間に挿入される「事実はこうだが、私はこう思う」という主張も筋が通っていて実に爽快、夢中で読み進んだ。
解放運動の歴史はほとんどが初めて知ることばかりで、筋金入りの荒くれ者が跳梁するかと思えば聖人のような秀才も登場し、それぞれ個性が際立った人物ばかりでべらぼうにおもしろい。苦労を重ねて立ち上げた水平社、そしてイデオロギーをめぐる内部対立の推移などは映画にできそうなほどエキサイティングだ。
「京都の被差別部落の歴史は古く、差別の根は深い。しかも、その差別は単純なものではなく、きわめて重層的で、かつ輻輳している。」で始まる第5章「渦巻く大都市部落 京都部落解放運動の光と影」、山の神様(熊野山岳信仰)と海の神様(補陀落信仰)を持つ和歌山の異界・新宮市を舞台にした第7章「大逆事件から水平社まで 和歌山の被差別部落」が特に印象に残った。
そして写真の人物は部落解放運動家の松本治一郎。
大陸浪人くずれのヤンチャ系(笑)でありながら、どうだろうこの慈悲に満ちた微笑みは。
“突破者”宮崎学が「神格化された人物といえども、卑近な次元に引きずり下ろ」して描いたという「解放の父」。興味のある方はぜひ読んでみてください。
(2012年11月23日記)