an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『ハーメルンの笛吹き男−伝説とその世界』阿部謹也

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界

ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界

まだらの服を着た不思議な男(または鼠とり男)の笛の音に村中の子供たちがついてどこかへ行ってしまうというミステリアスな童話は広く知られていることと思います。
この本は、ドイツ中世史専門の歴史学者の重鎮・阿部謹也氏がピンセットで薄皮を一枚一枚はぐような精密さで中世史料を読み解き、「1284年6月26日、ハーメルンの子供たち130人がカルワリオのあたりで行方不明になったことがまさに現実に起こった歴史的事実として確認しうる」というところから始まります。
子供たちがどこへ行ったのかという単純な謎解きではなく、「何故子供たちが出て行かなければならなかったのか」「何故これほど有名な伝説となったのか」そして「笛吹き男」とは何者か?このような視点にたって「民衆の日常生活とその思考世界に接近」を試み、キリスト教に基いた都市の成り立ち、下層民・賤民の生活、伝説の変貌の過程まで、ローカルな一都市の出来事を中世ヨーロッパ思想史にまでその考察は深められています。
 
・・・軽い読み物ではないので、じっくり時間をかけて読みすすめてほしい一作です。
歴史を学ぶ一人の人間の、ものを考える力に圧倒され心震えるはずです。
(2006.2.3記)


>追記
学者さんてすごいもんだなあ、と単純に感動した(笑)。
もっといろいろ読んでみたい1人です。
こちらもどうぞ。

自分のなかに歴史をよむ (ちくまプリマーブックス (15))

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