an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

古本まつりの記録

今更ながら、知恩寺古本まつりの成果はどうしても書き留めておきたい。興味のある方はぜひ手に取ってみてください。



◆『思い出す事など』夏目漱石

思い出す事など 他七篇 (岩波文庫)

思い出す事など 他七篇 (岩波文庫)

未読の漱石が100円均一とあっちゃあ、見逃すわけにはいかないわね。



◆『東京に暮らす』キャサリン・サンソム◆

東京に暮す―1928~1936 (岩波文庫)

東京に暮す―1928~1936 (岩波文庫)

英国外交官であった夫とともに昭和初期の東京に暮らしたキャサリン・サンソム。本書はまるで友人への手紙のように、やさしい調子で綴られた日本観察日記だ。
食事に買い物、女中や労働者とのやりとり(庭師の章がいい)などごく身近なことから、日本人の伝統文化や礼儀作法、娯楽や女性についてまで話題も多岐にわたっている。
「外国人が見た日本人」がとても愛おしく感じられるのは夫人の人柄によるものだろうが、そこは英国人、時折ピリリと皮肉を効かせ、臆せず自分の見解を述べるところも小気味よい。
マージョリー・西脇(西脇順三郎の元奥さんですって!)による、表情豊かで柔らかなタッチの挿絵もとてもいい。



◆『クリオの顔 −歴史随想集−』E.H.ノーマン◆

クリオの顔―歴史随想集 (岩波文庫)

クリオの顔―歴史随想集 (岩波文庫)

クリオとは歴史の女神で、内気で恥ずかしがりやのため、めったに人に顔を見せることがないという。そんな女神に惹かれたカナダ出身の歴史学者によるエッセイは、いかにも学者さんらしい生真面目な文体で、学問に対する真摯な姿勢と深い洞察が冴える一作である。
聞きなれぬ人名や次々に展開される論説についていくのに難儀したけれど(再読必至や・・・)、幕末の日本社会に思わぬ揺さぶりをかけた民衆の特異現象「お蔭参り」「はやり唄」「ええじゃないか」について、文献を丁寧に考察した『「ええじゃないか」考 −封建日本とヨーロッパの舞踏病』がおもしろい。



◆『パリの女たち』海野弘

鹿島茂先生同様、外国の文化・風俗に関しての軽妙エッセイの書き手として、目につくとつい手に取ってしまう海野さん。この人は陰謀とかスキャンダルとか、そういう下世話でミーハーなものもお好きで(鹿島さんも下ネタ好きだけどね)、さっと読めて楽しめるお得感のある一作だ。
本作は、女優サラ・ベルナール、女書店主シルヴィア・ビーチ、通信記者ジャネット・フラナー、アール・ヌーヴォーの踊り子ロイ・フラー、作家ガートルード・スタイン、ダリの奥方ガラ、エディット・ピアフなどなど・・・それぞれ超が付く個性派の女性たちと、花に群がる蝶のように次々と現れる芸術家たちとの波乱の生涯の一場面をスケッチしたものだが、ある章は小説風、またある章は手紙風と文体に工夫を凝らして小粋な仕上がりとなっている。
巨大な象牙の腕輪を手首から肘までびっしり装着し、腕を動かすたびにガラガラいわせていたという20年代の伝説的フラッパー、ナンシー・キュナードがビジュアル的にもひときわ印象的だった。パリにはエキセントリックな女がよく似合う。



◆『大博物学者 南方熊楠の生涯』平野威馬雄

大博物学者―南方熊楠の生涯

大博物学者―南方熊楠の生涯

熊楠の評伝なら神坂次郎の『縛られた巨人 南方熊楠の生涯』が広く読まれているのだろうが(たしかにおもしろい)、詩人でありフランス文学者であり、重度の薬物中毒者でオカルトマニア、そしてご存じレミパパでもある一大畸人平野威馬雄が書いたとなれば好奇心も膨らむというもの、思わず手が伸びた。
幼少期からの「先天的な考証癖と超人的な博覧強記」と南方家の風変わりな家紋「釘ぬき」を絡めたエピソードはこの堂々たる評伝に相応しいわくわくする幕開けだし、海外滞在中の壮絶な貧乏ぶりと数々の奇行には初めて聞くものも多く楽しめる。が、著者は熊楠に心酔するあまり、興が高じると「南方翁のすごさは私ごときでは到底お伝えできぬ。だが諸君、幸い翁は膨大な書簡・記録を残している。私が厳選したものから翁の肉声を大いに感じ取ってくれたまへ」とでも言わんばかりに、候文の手紙や晦渋な報告書などが延々引用されるのだ。これがもうホント読みにくいったらない(しかも肉声聴こえねえし。苦笑)。
まあ、これも当方の浅学のいたすところ、ゆるゆる読み進めるとするか。



(2013年12月27日記)