- 作者: パヴェーゼ,Pavese,河島英昭
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/10/17
- メディア: 文庫
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あのころはいつもお祭りだった。家を出て通りを横切れば、もう夢中になれたし、何もかも美しくて、とくに夜はそうだったから、死ぬほど疲れて帰ってきてもまだ何か起こらないかしら、火事にでもならないかしら、家に赤ん坊でも生まれないかしらと願っていた。あるいはいっそのこといきなり夜が明けて人びとがみな通りに出てくればよいのに、そしてそのまま歩きに歩きつづけて牧場まで、丘の向こうにまで、行ければよいのに。
このように魅惑的な書き出しで始まる青春小説だが、残念ながらこの後の展開はそう甘くも切なくもないのだな(笑)。
生真面目で幼さ残るジーニアと、皆の憧れのお姉さん的存在のアメーリア。
そこへイケメン画家が登場してたちまち恋に落ちるジーニアと、それによって微妙に変化するアメーリアとの関係を軸にストーリーはすすんでゆく。まあ俗っぽくいえば「痛みを伴うひと夏の経験」によって少し大人になる少女の物語だ。
これを冒頭のムードのまま儚く抒情的に仕上げれば、おそらくもっと広く読まれる小説になっただろうに、どこか登場人物たちの心情が曖昧で感情移入しにくい上、ミもフタもないような無慈悲な現実を突きつけて終るという、ちょっと変わった肌触りの作品に私には思えた。
ファシズム政権下で逮捕・流刑生活の経験もあるパヴェーゼの小説 は、密やかな孤独感を基調として、随所に暗喩と象徴を仕込んでいる。それらを読み解くことにより彼の小説世界は一層深まるであろう・・・というようなことを解説で知ってなるほどなと頷いたのだが、著者の写真を見て「そうか、この人が書いたのか・・・」と、いろいろ納得できたような気がした。
これは、生きることの苦しみを知る人の貌だ。
チェーザレ・パヴェーゼはこの『美しい夏』でイタリア最高の文学賞ストレーガ賞を受賞、その二ヶ月後に自殺している。
(2012年11月23日記)