- 作者: 種村季弘
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 1992/03
- メディア: 単行本
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冒頭のエピソードに登場するエーゴン・フリーデルなる作家曰く。
「人類の全精神史は泥棒の歴史である。アレキサンダー大王はフィリッポスを盗み、アウグスティヌスはパウロを盗み、シラーはシェイクスピアを、ショーペンハウアーはカントを盗んだ。停滞が出現することがあるとすれば、その原因は盗み方が足りなかったせいである。」
・・・この作品の幕開けにふさわしい大胆不敵な台詞である。
偽書作家たちは次々と大胆に、豪快にゲーテやシェイクスピアの架空の作品を作り出し、偽家系図を売りまくり、あらゆる歴史的人物の書簡(マリア・マグダレーナに宛てたイスカリオテのユダの手紙だって!?)を偽造し、架空の古文書をデッチ上げて文化や歴史を改竄しようとした。・・・すこぶるつきに怪しい錬金術師ならぬ錬紙術師たちが当時の碩学をカモっていく経緯を綴りつつ、著者は思わずこう言う。「とにかくそういう馬鹿と利口、あるいは利口と馬鹿がいて、とてつもなく非常識な茶番劇をやってのけたのである。」
この奇人たちのなかには、勤勉で古典の造詣深く、あらゆる言語に通じ、クリエイティヴな感性を持った人物も少なくない。「偽書作りの動機には、金や名声目当てから愛国心のあまりというのまで、さまざまのレベルがある」のだが、動機はどうあれ、“敵(偽者)ながらあっぱれ!”と言いたくなるのは種村さんの語り口のおかげかな。
(2007.7.16記)