・・・さて、6月といえば父の日である。
母の日にくらべていまひとつ地味であり、あっ、そういえばと今気付いた方もおられるのではないかと思う。・・・近頃は畑仕事だけではどうも退屈らしく、「小説を書く」などと息巻いて家族をウンザリさせた(笑)ウチの父には、季節的にも価格的にも妥当な消耗品であるTシャツを何枚か買い与え・・・などという話はどうでもよく、そういえば「父」を素材にした作品ってけっこういろいろあるなあと思いついたのである。そう、たとえば。
・・・まず最初に思い浮かぶのは、高名な作家である父のことを書く(森茉莉、幸田文、北杜夫etc・・)というもので、すでに一ジャンルとして確立されているような感がある。しかしこれらは“ご立派感”にやや気圧されるようなところがあって、実は全然読めていないのだった。
矢内原伊作による矢内原忠雄伝、なんていつか読んでみたいものだが。
こういったものに比べるといくぶん等身大で、「父という他者」とでもいうような絶妙な距離感をもって描かれた、沢木耕太郎『無名』(・・私は著者がちょっと苦手なんですが、これはとてもいい作品でした)、田中小実昌『アメン父』(相変わらず、つかみどころがまるっきりありませんが・・笑)などはとてもおもしろく読み、興味のある方にはぜひ手にとっていただきたいと思う。・・・が、今回のイチオシはこちらの小説である。
偶然にも物語の設定と雰囲気が少し似ている。
語り手はどちらも思春期の子ども。彼らの父は大きな苦悩を抱えており、それを抱えたまま、まもなく死ぬことがわかっている。その父の苦しみや秘密を子どもながら察知しているが、それを口に出してはいけないということにも気づいている。
大人であれば目をそらしたり責めたり逃げ出したりできるけれども、子どもにはそれが出来ない。受け止めるしかない。・・・ああ、子どもにこんな思いさせちゃいかんよと思うような、なんとも哀切な物語なのだけれども、雪が解け始めた荒地にひっそりと小さな芽が出て、時間とともにゆっくり花が開くような、そんな余韻が残るとても魅力的な小品だ。
◆『おわりの雪』ユベール・マンガレリ
- 作者: ユベール・マンガレリ,田久保麻理
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そのやさしい言葉で語られる絶句するような残酷な一瞬を、あなたはどのように受け止めるでしょうか。
◆『エル・スール』アデライダ・ガルシア=モラレス
- 作者: アデライダガルシア=モラレス,Adelaida Garc´ia Morales,野谷文昭,熊倉靖子
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小説では、少女は勝気でやや辛辣なところがあり、このあたりはそれぞれの芸術家としての感性・・・というよりも、男性・女性としての受け止め方の違いのように思われて興味深かった。・・・そう、女は強いのだ。
目の前に、あるいは自分の心のうちに「語りえぬもの」が出現したとき、彼らはふっと黙り込む。そして、自分の外の、あるいは内側の、わずかな気配、かすかなふるえに耳をそばだてる。(『おわりの雪』訳者あとがきより)
情報やら説明やら饒舌で満ち溢れた日常からひょいと離れて、ささやきのようなやさしい声で綴られた、儚い記憶の物語をお楽しみいただければ。
(2010年6月24日記)