an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

「考える人」

「誰、誰っ、この人!」その表紙にただならぬものを感じてつかみ取った雑誌
「考える人」。

・・・そういえば雑誌を買うなんて久しぶりだ。
その昔、面白い人やかっこいい人はいつも雑誌の中にいた。私は「80年代「宝島」世代」で、身近な人間はみんな読んでいて少なからず影響を受けたものだ。なにしろコドモだったので、ああいうやみくもなパワーをまき散らした乱雑な雰囲気がすごく刺激的だったのだ。今でも当時活躍していたライターの本を楽しんでいるし、あざとさばかりが目につく昨今のいわゆる「サブカル業界」を完全には無視できないのも「宝島」の後遺症のような気がする・・・。

ちょっとカッコつけたいお年頃になってからは「CUT」たまに「Esquire」。
ちょうど盛んに映画を見始めた頃で、ハイセンスな写真(広告までおしゃれ!)と海外の大スターや大監督のインタビューにはわくわくしたものだ。
少しはもののわかった大人になってからは、なんといっても書評誌「LITTERAIRE」。
豪華な執筆陣と山本容子さんのしゃれた表紙と編集長・安原顕氏の辛辣きわまる「スーパー・エディターズ・ノート」が最高だった。写真も広告もほとんどなく、紹介される本もそこらの書店では見つけられないような一筋縄でいかないものばかりで、「世の中にはなんてすごい人がいるんだろう」と毎回感嘆の思いで読んでいた。なので私の読書傾向はこの雑誌に決定的な影響を受けている。・・・全然太刀打ちできないけど。
・・・という遍歴の後、雑誌はすっかり買わなくなってしまった。
ちょっとした時間つぶしに立ち読む雑誌がもっぱら週刊文春、新潮、クーリエジャポンSAPIOといった混迷ぶり(おっさん臭高め)。同世代の人ってどんな雑誌読んでるのかな・・・今これ書いてて興味出てきた。よかったら教えてください。

閑話休題
ただならぬオーラを放つ表紙の人・・・
それもそのはず、このお方は朝永振一郎博士である。
この「考える人」、初期は表紙にJ・J・サンペの愛らしくもユーモラスなイラストを使っていたと記憶しているが、最近は写真になったようだ。しかしこんな写真を表紙にバーンともってくるあたり、やはり他と一線を画したハイブラウな香り高い雑誌である。
今回は科学者たちが一般の読者向けに書いた良書を紹介してくれるという、心ときめく企画「日本の科学者100人100冊」。寺田寅彦中谷宇吉郎牧野富太郎といった超有名どころから初めて知る名前も多数。前回私が日記で紹介した『天文台日記』が古本ライターの岡崎武志さんの筆によってデカデカと掲載されている。

なんかうれしいぞ。

そして「考える人」といえば小林秀雄賞発表の舞台でもある。
選考委員が加藤典洋関川夏央橋本治堀江敏幸養老孟司というすんごいメンバーで、この5人が推すのであればしのごの言わず黙って読ませていただきましょう。
(・・・とか言いながらちょっとしか読めてなかったりしますが・・)
           ↓ (過去の受賞作品コチラ) ↓
  http://www.shinchosha.co.jp/prizes/kobayashisho/archive.html

おそらく今年は水村美苗さんのあの本でキマリでしょう。これも読んでませんが・・・。


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山田風太郎『同日同刻 −太平洋戦争開戦の一日と終戦の十五日−』

当時の敵味方の指導者、将軍、兵、民衆の姿を、真実ないし真実と思われる記録だけをもって再現して見たい。しかも、同日、できれば同刻の出来事を対照することによって、戦争の悲劇、運命の怖ろしさ、人間の愚かしさはいっそう明らかに浮かびあがるのではないだろうか、と考えた。

あらゆる階層の人たちが何を思い、何をしたのか記す。発想としては面白いけど、時系列で事実を並べただけのものなんて資料とどう違うの・・・?と思った私が浅はかでした。
・・・すごい本。読みながら何度も、私はこの戦争のことを何一つ知らない・・・とめまいを覚えるような心持になった。

昭和十六年十二月八日、午前零時。
六隻の空母をふくむ南雲機動部隊は、ハワイ北方の予定地点を目前に、枚をふくんで迫りつつあった。夜はまだ空けず、ただ十三・四メートルの北東の風が闇夜に凄愴な怒涛を砕いていた。

さっと目前に映像が立ち現れる。公式記録や著名人の日記などを並べて「今、この時」を立体的に浮かび上がらせる。同時にカメラはあらゆる方向をむき、世界がどう動いていたかも俯瞰してみせる。・・・そして、カウントダウン。
岡本喜八が撮った『日本のいちばん長い日』という作品をご覧になっただろうか。
時計が何回となく大写しになり、閣僚たちやクーデターを企てる兵士がじりじりしながら時間を確認するシーンが実に印象的だった。刻一刻、決して止むことのない時間。
それはもう起こってしまった。・・・時の流れの無機質な非情さに戦慄する。
映画を1本観るくらいの消耗を覚悟して、ぜひ手にとってみてほしい。


(2009年7月5日記)