an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

ブラボー!イーストウッド

今年のGWはお伊勢参り、としゃれこみましたところ雨、雨、雨。
・・・数日前、多くの人に愛されながら逝った人を偲ぶ涙雨かとも思われ。
足元悪く衣服は濡れて体は冷え込むも、鬱蒼とした緑が雨にけぶり、粛粛としてたたずむ正宮は、確かに、なにごとかのおわしますゆかしき空気に包まれていた・・・はずなのだが人、人、人多すぎ(苦笑)。石段を埋め尽くすカラフルな傘の集団に、現代アート的シュールさすら感じたことでありました。
そして一体何回目やねん、と思いつつ鳥羽水族館。またしても黒山の人だかりに卒倒しそうになるも、スナメリの笑顔を見て息を吹き返す。・・・かように、飛んで火にいる虫な休日を過ごした私ですが、皆様はいかがお過ごしでしたでしょうか。


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クリント・イーストウッド『グラン・トリノ』を観る。

グラン・トリノ [DVD]

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この名はフォードのヴィンテージカーのことだそうで、70年代モノだからいかにもアメリカ車、バカでかくてエラソーな感じの車だ。
私は車とかバイクとかいったものにまるっきり興味がなく、安全に走りさえすればいいと思っており、お下がりのオンボロ黒マーチ(←黒かよ・・笑)を機嫌よく運転している大変安上がりな女である。であるから、「思い入れたっぷりの愛車をピッカピカに磨き上げてご満悦な差別主義者の東欧系頑固爺」などとは何一つ共有するものもなく、理解不能な存在だ。だからいっそう興味を覚えた。この爺を主役に据えて一体どんな物語を拵えたのだろう。
イーストウッド監督は容赦ない。胸が痛む、を通り越していつまでも胃が疼くようなしんどい映画を作る。『ミスティック・リバー』や『ミリオンダラー・ベイビー』をご覧になった方ならこの感じ、よくわかっていただけるだろうと思う。
本国ではR指定を食らうほどのキョーレツな差別用語を乱発するイーストウッド演ずるコワルスキー爺さんと、銃を乱射するガキどもがストーリーを動かしていく、やはりハードな内容だ。ひょんなことから知りあったモン族(彼が身震いするほど嫌悪していたアジア人!)の少年との微笑ましい交流も長くは続かず、ついに事件が起こる。そこで彼の選んだ決断とは。
・・・自分自身へ決着をつけるために、愛するものを守るために、引き金を引かないのである。こういう選択もある、ということに、案外多くの人が気付かないのではないだろうか。これが、長い長い道を歩いてきた老監督がたどりついた終着点かと思うと、なんだか苦しくなる。・・・と同時に、これほど優雅な死に様を描いた手腕にただただ感嘆。
・・・ああそれにしても・・・このところ涙腺がゆるくていけません。


   男性は本質的に虚構的な存在である。
   それが「虚構」だと知りつつ、命がけでそれを演じきったときに       「男は男になる」。
    
   ・・・毎度のことながら内田樹先生は、心憎いほどうまいこと言うねえ。

      


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三島由紀夫強化期間、細々と継続中。「太陽と鉄」「私の遍歴時代」2本立て。
「太陽と鉄」・・・「告白と批評との中間形態、いわば「秘められた批評」とでもいうべき」本作だが、未読だからってまたよりによっての難物(読み始めてから気がついた・・)を選んでしまった・・・。ことさらに難解な言葉やレトリックを用いているわけでもないのに、そしておそらく、極めて論理的であるはずなのに、それはもう大変にわかりにくい。(まあ、わかるわからんというより、受け入れられるかどうかの問題のような気もするが)
もうちょっと具体的な手触り、肌触りが欲しいんだな・・・とはがゆく思っていたら澁澤龍彦の『三島由紀夫おぼえがき』が意外や役に立った。この本、他にもいろんなエピソード満載で面白いです。澁澤さん、食わず嫌いだったけど。

「私の遍歴時代」は作家デビューに至る経緯から文壇交流まで回想録風に軽いタッチで書かれたもので、「太陽と鉄」の後だと夢のように読みやすく(笑)、太宰治に向って「あなたの文学はきらいです」発言をしたとされる有名なシーンも登場し、なにかと興味深く読める一編だ。
最近亡くなった加藤周一氏が登場するところがちょっとおかしかったので紹介。

私は加藤氏の検事のごとき目玉に怖れをなし、この人が何か一言言うたびに、教員室で悪戯小僧がしかられているような気がした。

私もすごく怖そうな人だなあとずっと思っていたのだ。
うかうか口を滑らせようもんなら「このうつけ者めがっ!」(←こんな感じのセリフが似合うと思う)と一喝されそうな。
でもまさか三島由紀夫をビビらせていたとは知りませんでした(笑)。
いろんな意味ですごい方だったのですね。

太陽と鉄 (中公文庫)

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三島由紀夫おぼえがき (中公文庫)

三島由紀夫おぼえがき (中公文庫)

(2009年5月8日記)