an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

地球は女で回ってる

ブックオフで文庫まとめ買いしたうちの一冊、野坂昭如エロ事師たち』を読む。

世間では村上春樹の新作に話題沸騰中だというのに何を読んでおるのだあたしゃ、と力なくツッコミつつも、なんだかもうすっかり感心してしまった上、読了したあかつきには登場人物たちに「・・・ごくろうさん。」の一声もかけたくなってしまう快作であった。
思わず眉をひそめそうなことまでも独特のチャームと滑稽にしてしまうグルーヴ渦巻く関西弁の妙と、最後まで目が離せない怒涛のストーリー展開。
さてはおっちゃん、これ書いてる時なんか憑いてたな(笑)。
これだけ下品をぶっちゃけてるわりに嫌な気分にならないのは、「女にはかなわんでホンマ・・・」というような、そこはかとないリスペクトが基底にあるからでは、と思うんですがどうでしょう?(・・・って聞かれても困るか)

・・・で、今回の思いつきネタ。ここ最近「おっ」と思った女たち、ってことでひとつ。


星野博美のエッセイ『のりたまと煙突』を読む

「元気はつらつ、いつでも前向き!」という感じの女の人が実はちょっと苦手だ。嫌いなのではない。自分がヘタレなので、そういう人を前にすると怖気づいてしまうのだ。
星野博美さんは私にとってずばり「そういうイメージの女の人」だった。
大宅壮一ノンフィクション賞をとった『転がる香港に苔は生えない』でご存知の方も多いと思うが、大学を出てすぐカメラマンの助手になり、バックパックで1人世界各国をふらりと旅をしたり住んでみたり・・・沢木耕太郎の女版?そういうのダメかも・・・と思っていたのだが、愛読している中野翠さん(←映画の趣味がすごくあう!)や米原万里さん(・・・はあんまり知らんけど)が取り上げて褒めていたので、もののためしに手に取ってみたのだ。
・・・驚いた。タイトルからしてほのぼの系ちょっとイイ話を綴ったものとばかり思っていたのが、すごく内省的で暗い印象のエッセイだったからだ。身近に起こったささやかなことを淡々と書いているのだけど、「死」のイメージがそこここに漂う。猫たち、大家のおばあさん、友人、そして交差点に毎日置かれている花束。
「あの時、ああしておけばよかったな」と反芻するのはけっこうしんどいもの。でも、そのしんどさをこんなふうに昇華できるなら悪くない。過去を振り返るときの甘いノスタルジーと、後悔の持つ苦いやるせなさがほどよくブレンドされた、なかなか乙な味わいだ。
文章のトーンは暗いのに、読んだ者の心を少しばかり軽くしてくれるのは、黙ってそっと寄り添っていてくれるような適度な距離感と、喪失の痛みを知っている人の持つ優しさにふれるからだろう。

ドキュメンタリー映画『アニー・リーボヴィッツ レンズの向こうの人生』を観る
・・・おそらく天才肌の芸術家タイプではなくて、自分に何が求められているかを熟知した「必殺仕事人」タイプの女性なんだろうなあと漠然と思っていたのだが、あたらずとも遠からずといったところ。旅をしながら育った少女時代、60年代カウンターカルチャーの真っ只中、ドラッグ地獄から無事生還し、そして世界中のセレブリティを撮って押しも押されぬ人気カメラマンになっていく過程を様々なアーティスト、スタッフたちのインタビューを交えて描かれる。


      


私はこの人が、晩年のスーザン・ソンタグのパートナーだった、というこの一点にのみ関心が集中していたのだけど、残念ながら多くは語られず。まだ彼女のことを話すのはつらいのかもしれない。
まあしかし・・・この人といい、スーザン・ソンタグといい(あとパティ・スミスも!)、凄みを帯びた実にいい顔をしている。「不敵な面構え」という言葉がぴったり。こういう容貌は日本ではなかなかお目にかかれないよなぁ・・・と思わせてくれる「貌」で満ちた、見応えのある作品ですので、興味のある方はぜひ。


産経新聞記者・福島香織さんのブログ「北京・平河趣聞博客」を読む
こちらは妹から教えられたのですが、すでに有名なのかな・・?
北京駐在時代に書かれた中国ネタの圧倒的な面白さ!現場ならではのピチピチした活きのいい文章が存分に楽しめる。
政治・経済・文化はもとより、世界情勢を見据えた硬派な見解から庶民の下世話な小ネタまで、当局の検閲ギリギリのところをかいくぐって書かれたものの中には俄かに信じられないようなクレイジーな話が満載(やはり一番ぎょっとするのはすさまじい食品汚染ですね)、福島さんの鋭いツッコミが冴えること冴えること、読み出したらやめられない。
何事に関してもヒステリックな糾弾に陥らないのは、この人の聡明さとユーモアセンスの良さのためでしょう。中国への愛も(ちょっとくらいは)あるかも。
・・・現在は帰国され、政治部の幹事長番に。うーん、残念。


(2009年6月8日記)