an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『長沢節 伝説のファッション・イラストレーター』内田静江

イラストレータ原田治さんのブログ“原田治ノート”がおもしろい。さらさらと軽いタッチで書かれたほんの短い文章だけど、セレクトされるものが毎回光っている。本日(9/2)などはアニエス・ヴァルダが撮ったジェラール・フィリップの写真付き。おやつをのせた皿や灰皿(このご時勢にパイプ&葉巻を吸われているとか。最高!)やお湯のみなどの日常品がすばらしくハイセンスである。好みの小物や音楽や映画の話も楽しい。ソフィスティケイテッドな、日本語で言うところの小粋なものの数々・・・見て、読んで楽しめます。

そこで今回は、同じく見て読んで楽しめる、ユニークなイラストレーターの本を紹介いたしましょう。イラストを画き、ファッションデザインをし、映画評論も書き、“セツ・モード・セミナー”を設立して多くの人材を育てた長沢節。・・・もうずいぶん前に亡くなっているし、どういう人かよく知らないまま手にとったのだが、センスが良くて絵が上手くて、奇抜なファッションでおかしなことばかり言う、このチャーミングな人について書かれた本がおもしろくないわけがないのだ。(・・・タイトルの「伝説の」ってのは余計だけどな)
まず躍動感のある美しい人物のデッサンと、なんとなく可愛らしい風景画をぞんぶんに楽しむことができる。弟子たちが語る多くの笑えるエピソードや写真により、つかみどころのないキャラクターをあれこれ想像して楽しくなる。しかもエッセイや映画評論がまた実に読ませるのだ。特にF・サガンの言葉に触発されて書かれた大人の魅力と孤独を語る文章などは、ぜひ今時の男性諸氏に読んでいただきたいな。

「孤独だから、淋しいから人に優しくなれる」といって生涯独身をとおし、「若さ」よりも「可愛さなどのカケラもない」大人をこそよしとした独特の美意識。大正生まれの人にそんな台詞を言い放たれて実践された日には、カッコよすぎて困ってしまいます。
その軌跡と魅力が堪能できると同時に、本当に多くの人に愛された人だったんだな、と思わせる一作です。興味のある方はぜひどうぞ。
(2007.9.3記)


>追記
この人の映画評にとても興味があります。
(ダニエル・デイ・ルイスがお好きだったそうです)
読まねば!