an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

大人の本棚

みすず書房に「大人の本棚」というシリーズがある。
メインストリームからちょっと外れた通好みのセレクト、この外し方のこなれた感じがいかにも大人だ。そしてシンプルでありながらも目を引く装丁、さすがはみすず書房なのだった。

             ↓「大人の本棚」↓
       http://www.msz.co.jp/book/series/list_43.html

イラストレータ原田治さんの『ぼくの美術帖』(←おすすめです!)に続き、英文学者・戸川秋骨のエッセイを、明治文学オタクの坪内祐三が編集した『人物肖像集』を手に取ってみた。そして明治人の生真面目な文体の中に浮かび上がる、現代人にも通ずるウイットの妙味にすっかりハマってしまった。夏目漱石、北村透谷、斎藤緑雨小泉八雲らビッグネームが顔を出すし、文章にさくさくした心地よいリズムがあるので、旧仮名遣いも難読漢字もなんのその、「私はユウモアが人生で甚だ大事なものであると考へて居る」などといううれしいフレーズを発見してはこの明治の文人と日々握手を交わしたりしている。ことに福沢諭吉の言動をもってユーモアの何たるかを説く「ユウモアの福沢先生」と、痛快な女性が続々登場する「女人交遊」の章が秀逸。(・・・そういえば『福翁自伝』もたいそう面白いらしいですね)
次に読むならやっぱり寺田寅彦の『懐手して宇宙見物』かなあ。
そそられますねえ、このとぼけたタイトル。
・・・ちょっと高価な本なのであれもこれもというワケにはいきますまいが・・・シリーズ中でこれ面白いよ!というものがあれば、ぜひご一報ください。


・・・さて、現在私は何故か「三島由紀夫強化期間中」なのですが、さっそく『豊饒の海』で溺れて遭難寸前(さ、再読なのに・・・)。『春の雪』は桜吹雪の舞い散る如く、『奔馬』は荒波のうねるが如く一時も目を離せない流麗な一大ロマンであるのに比して、なんでしょうか『暁の寺』のこのすさまじい難解さは。むむむと呻吟していたところ、たまたま橋本治が「私には、なにがなんだか分からない」と言っているのを発見、この人にわからんもんが私ごときにわかるはずないわな、あははは・・・と笑ってすますことにして、ようやっと『天人五衰』にかかっております。そのうちレビュー・・・とても書けません。
今更言うまでもないことですが、読めば読むほど・・・本当にとてつもない作家ですね。


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ロン・ハワード監督『フロスト×ニクソン』を観る。
ロン・ハワードといえば・・『コクーン』に『バックドラフト』、『アポロ13』などで“強く正しいアメリカ”を描くことに成功し、ここ最近では『ビューティフル・マインド』や『シンデレラマン』でラッセル・クロウの調教に成功し、ドンくさそうな風貌のわりに(失礼・・・)めったに大コケ作品を撮らない堅実な人、という印象がございます。
で、『フロスト×ニクソン』。
見るからに百戦錬磨、老獪な策士である元・大統領と、長いモミアゲに葉巻姿もチャラい感じのトークショー司会者、この2人のガチンコトーク・バトル、それだけの映画だといっていいでしょう。・・・なので脚本と主演2人がお粗末だとまったくお話にならず、お話にはなったところでエンタテイメントにはなり難く・・・ちょっとキツいかな、途中で寝ちゃうかな・・という思いが一瞬よぎったがなんのなんの、あっという間の2時間であった。
脚本も役者も見事。心地よい緊張感に満ち満ちた映画です。
政治に対する厳しい追及とそれに対してあくまで正当化を主張する周到な弁舌、そしてフロストに思いがけない勝利を与える「TV」という映像が持つ力。いろんなパワーを目の当たりにしてなんだか清々しい。
・・・やるじゃないかロン・ハワード!
しかし、次作は「ダ・ヴィンチ・コードPartⅡ」っぽいモノみたいです(がくっ)。

(2009年4月11日記)