an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『行方不明のヘンテコな伯父さんからボクがもらった手紙』マーヴィン・ピーク

物語における「伯父さん」のポジションについて考えてみたのだ。世界を代表する「伯父さん」といえばジャック・タチの名作映画『僕の伯父さん』ユロ氏。日本でいうならさしずめ寅さんか。ふいに現れては起こすちょっとしたハプニング、皆にあきれられながらも憎めないそのキャラクター、そして愛されているにもかかわらず、時々ふらりといなくなる。
これが「父さん」だと、どうしても主人公(や読者)に直接的な影響を与えすぎてしまう。この物語にはできるだけ深刻な空気をまとってほしくない。ましてや主人公のアイデンティティなんぞに深く立ち入る野暮はお断り。そんな時、出番は伯父さんである。いつも川の向こう岸くらいの位置に立って飄々としている。たまにいなくなっても誰も騒がないmarginal man、それが伯父さん。
そんな「伯父さんの正しい系譜」(←?)にのっとった愉快な本をご紹介しよう。作者はイギリス人で絵も文もこの人の手によるもの。全ページに木炭だかエンピツだかで書かれた、素朴だけどダイナミックな絵が入っているので、カテゴリーとしては絵本なのだが、そこは一癖も二癖もある本しか出さない国書刊行会のこと、ありきたりな絵本ではないのだね。

この叔父さんは故あって海に浮かぶ氷の大地を旅しており、その経緯を甥っ子への絵手紙にして綴っている。片目片足義足という異形の姿もさることながら、相棒のジャクスンなる亀犬(!?)、コイツの姿が抜群なのである。伯父さんに間抜けよばわりされつつも健気にソリを引いたりするのだが、始終なんとも情けない顔をしていて、たまに鳩に豆鉄砲な顔をしたり、意地悪そ〜な顔をしたり、亀のくせに表情豊かでそりゃもう笑わせる。この本の一番の見所といってもいいくらいだ。で、この絵手紙には、黒や赤の液体をぶちまけたようなシミがついていることがあって、そこには手書きで、ジャクスンの阿呆がつまずいてコーヒーをこぼした、とかなんとかブツブツ文句が書いてあるのだ。タイプした字も誤字脱字だらけのところを手書きで修正したり、上から紙を貼ったり、独り言みたいな補足を書き込んだりして、レイアウト上の遊び心が満載なうえ、伯父さんは数々のピンチを突拍子もない方法で切り抜け、感動のクライマックスも用意されている。・・・読み終えたらきっとあなたもこう思うはず。「男はこうでないとね!
ま、ファンタジーとしてはいささか渋めの作品ではあるけれど、ちょっと粋な友人へのクリマスプレゼントにいかがでしょうか。
(2007.11.30記)


>追記
本当にユニークな絵本です。
著者のほかのものも読んでみたいな。