an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『こぐこぐ自転車』伊藤礼

こぐこぐ自転車

こぐこぐ自転車

テクノな人(クラフトワークの人たち)もロックな人(忌野清志郎)もサブカルな人(吉田戦車)も喜んで自転車に乗る昨今、インテリだって自転車に乗るのだ。著者は古希を迎えようかという堂々たるご老人。ファイト一発的暑苦しい読み物であるはずがなく、かといって定年後の理想的スローライフロハス万歳的なしゃらくさいものでも全然ないのだった。

ゴルフ場が大きな顔をして日本じゅうで自然破壊をしているのが口惜しくてたまらない。それでゴルフ場の門の前で自転車を止めて、腹いせにおしっこをした。
ざまあみろ、おしっこだぞ。

         ・・・コドモなのか(笑)。

ある友人が望遠レンズで撮ってくれた自転車走行中の私の姿は自転車をこぐ動物園のおサルにすこし似ていた。

         ・・・サルなのか(笑)。

言っておくが、著者は評論家・伊藤整のご子息にして大学教授であったやんごとなきお方なのである。
今時の人はこぞって海の向こうへ行きたがるけれど、自転車による“未知なる近所”散策もなんとスリリングなことか。行かねば!などと思わせてくれるし、遠征の際の、その地域へのあくなき好奇心にこちらもわくわくするし、地元住民や食べ物に対する辛辣な観察眼とすっとぼけたユーモアに思わずニヤニヤ。
厳かな断定口調でなんだか間の抜けたことをさかんに考察され、加齢によるいささか自嘲的な苦労話も満載だ。面白い。すげぇ面白い爺さんだ。久しぶりに気持ちよく笑わせてもらった。

大群衆が私を見て、やはり自転車はいいな、と感嘆しているのがひしひしと伝わってくる。十キロメートル走りぬいて、最後に大観衆に見守られながら新宿駅南口の陸橋を駆け上がる私の姿があるのである。

         ブラヴォー!!

(2007.5.24記)


>追記
うーむ、時代の先をよんでいたかのような、自転車ブームですねえ。伊藤先生はまだ元気で自転車に乗られているのだろうか。そうであってほしい。

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