本と映画の批評に関して、私は中野翠さんとこの安原顕さんを全面的に信用しております。その安原さんとの出会いの書であり、バイブルでもあるこの一冊。彼の死で数少ないナビゲーターを失ってしまったけれど、ここに登場する本を読むだけで一生かかりそうです・・・。
著者が手がけたのは『パイデイア』『海』『マリ・クレール』『リテレール』等々、すべていわゆる純文学・思想・芸術系の雑誌です。その長い長い編集者生活の中でのさまざまな出会い、膨大な企画(雑誌の目次の羅列!)とその思い出などが綴られます。
この人けっこう短気な人でして、無礼な物書きとか無能な上司とか出版業界の理不尽さ(詳しくは読んでいただきたい・・・)をえらい剣幕で怒っています。その「怒」モードにただならぬパッションを感じます。一度怒りだしたら社長はおろか大権威である大江健三郎にだって逆らっちゃうよ。
この「決定版」では、武田百合子・野坂昭如・山田風太郎・色川武大・吉増剛造・谷川俊太郎らのインタヴューも読むことができます。
スリリングな小説を読みたい、アグレッシブな新人に出会いたい、良い雑誌を作りたいという気持ちだけで、損得省みず全力疾走した人でした。いなくなって本当に寂しい。
(2006.2.22記)
>追記
今でも何か事件が起こるたびに、この人だったらなんていうかなあ、と思ったりします。この本読んでほしかったな、とか。
憎まれっ子世にはばかる・・・はウソですね。
亡くなる直前まで書いてました、こちらも。