・・・とか言っちゃうといかにも日本文学通みたいなんですが。
実は恥ずかしいくらい読んでないのでした。『奇妙な仕事』とか『セヴンティーン』とか『性的人間』とかの初期短編をいくつか、あと『個人的な体験』くらいかな。読みにくいんですよ、すごく。あの文体には相性がある。
それにわたくしもお子様だったものだから、なんだか(今風に言うと)“こじらせた性のうねり”みたいなものが大変に薄気味悪かった。でも思えば「薄気味悪い」というのは文学ならではの繊細な味わいと言えますね。
万事モロ出しに慣れてしまった現代においてはなお。
自称スーパーエディターの安原顕は長くその才に心酔していましたが、ある時激怒暴露文を自分の雑誌に掲載したことがありました。曰く、ある作品を(敬愛ゆえに)痛烈に批判したところ、安原の所属していた出版社の上層部に圧力をかけた、と。まあ、安原顕自身がいろいろと問題のある人物だったのでアレですが、真正面から受けて小生意気な若造の鼻っ柱をへし折ってやればいいものを、上にクレーム入れるなんて・・・でもそういうことしそう・・・と思ってしまった私でした。権威は人を変える。
『洪水はわが魂に及び』『雨の木(レイン・ツリー)を聴く女たち』『空の怪物アグイー』『いかに木を殺すか』『燃えあがる緑の木』『﨟たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ』・・・タイトルすごくいい。ロマンティック。思わず読みたくなっちゃうな(うそ。タイトルだけでお腹いっぱい)。
古井由吉が逝き、加賀乙彦が逝き、大江健三郎も・・・。現代日本文学の幕が静かに下りるような気持でいます。
若い人で万延元年なんかをがんがん読んでる人がいたら友達になりたいな、嫌がられるかな(笑