an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『今夜、すべてのバーで』中島らも

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

今夜、すベてのバーで (講談社文庫)

生前は、ラリ中でアル中で鬱病にはなるわ逮捕はされるわで実に難儀なおっさんであったわけです。しかしこの人、とろ〜いしゃべりで皆を煙に巻き、ハラホロヒレなことを言うわりに目つきは鋭かったですよね。差向かいになったら恐いかも、というくらい。
これは自伝的な要素を多く含んだ小説ですが、アンバランスで危ういムードながら、本質的には真っ当な人であったことがよくわかる。

依存症という精神の危機を、砂山が少しずつ崩れてゆくようにリアルに描いていますが、(主人公のアル中以外の)生き生きした登場人物と、コントみたいに挿入される病院生活のエピソードによって悲壮感はありません。偽善も自己憐憫も全くなし。あの鋭い目で自分を突き放す、潔い人です。そういう人が危機をどう克服し、迫りくる越えてはならない一線をどう踏みとどまるのか。この小説は、しんどい時のちょっとした妙薬になるかもしれません。
・・・小説のラストはさわやかでしたが、現実の世界ではさあどうだったのでしょう。
(2006.2.19記)


>追記
おもしろい人がいなくなって本当に残念、とは思いますが、長生きするタイプの人ではないですね。
(・・・真っ当・・・じゃない、たぶん。笑)
早速奥方が暴露本を出したときはやれやれ・・・と思ってしまいました。
これもよく読んだな。

中島らものたまらん人々 (双葉文庫)

中島らものたまらん人々 (双葉文庫)