an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『風貌』土門拳

土門拳 風貌

土門拳 風貌

著名な芸術家や学者など136人のポートレートにシンプルな撮影エピソードを添えた作品である。あの土門拳であるからには目にくるいはない。モデルの息遣い、気配、上りたつオーラに圧倒される一品である。
解説の一人である山藤章二が、昔の日本人は(モデルになっているのは大半が明治生まれ)「圧倒的に顔がいいのである。絵になるのである。」と書いているが、本当、実にいい面構えの男たちである。
自分で直したヘンテコな眼鏡をかけた志賀潔(細菌学者)、バーの止まり木で背を丸めて座る吉田健一(英文学者)、一心不乱に彫る棟方志功(版画家)、麦藁帽にパイプを持つ熊谷守一(画家)、火鉢のそばでくつろぐ古今亭志ん生(五代目)、珍しく禅僧のように厳しい顔した谷崎潤一郎、そして川端康成!・・・その眼は、何を見てる?
一体どんな人生をおくったらこんな風貌ができあがるのだろうか。しわの一本一本に刻まれた時と、作り上げてきたものに思いをはせる。
「うん、やっぱり人生は生きるに値する」というような気分になりましたよ、私は。

ちなみに画面に出ているのはケースの表写真、作家の高見順であるが、本表紙は志賀直哉、裏が升田幸三。本書の中でも抜群の一品である。
(2006.6.10記)


>追記
人物を撮った写真集にはひかれます。
高くて買えないけど、こちらなど。

ポートレイト 内なる静寂―アンリ・カルティエ=ブレッソン写真集

ポートレイト 内なる静寂―アンリ・カルティエ=ブレッソン写真集