an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

高野山で読む本は②

高野山の宿坊に泊まるのは初めてだ。どんなところか以前から興味津々だった。
「大部屋雑魚寝ってことはないにしても、殺風景な小部屋でひょっとするとTVやエアコンがなかったりするのでは」「宿泊料も安いだろうし、合宿とかで騒がしかったら嫌すぎる」「よもや豪華な食事は期待できぬから、菓子など持ち込むべきか」「酒が飲めないとなると一大事である」「早朝のお勤めや写経などは、泊まったからには参加するのが常識なのか」「そしてもしかして、「人でない何か」が現れたりするのだろうか。だってここって町まるごと墓地みたいなもんだし」・・・・・・等々愚にもつかぬ戯言がアタマに浮き沈みしていたのだが、これ見事に全部「そんなわけあるかい!!」なのだった。何事も経験してみるものである。

しんと静まった本堂に手入れの行き届いた庭園、一人では充分すぎる広さのこざっぱりしたお部屋には美味な茶菓子なども用意されている。色とりどりのすばらしい精進料理(ビール付、食べきれないほどの量・・・)には目を見張ったし、なにより古い木造の建物のしっとりした落着きはお寺ならではの心地よさ・・・・・・そして当然のことながら、宿泊料も贅沢価格だったのである(苦笑)。






ところで、宿坊では長い夜を過ごすことになるなと思った私はぬかりなく文庫本を用意していた。旅先で、高野山で何を読もうか。

このところ凝っている梶井基次郎の短編集でも読み進めて「白日の闇」なるものに思いを馳せるか(それにしても・・・『冬の蠅』『蒼穹』あたりは、「これを書いているこの人は、もうまもなく死ぬ」という確信と戦慄を感じさせる小説として芥川龍之介『歯車』と双璧だな)、それとも軽妙にして洒脱、子供の好奇心と大人のノーブルさを併せ持つ名エッセイ、團伊玖磨パイプのけむり』シリーズを楽しむか・・・今回は選集「食」。世界中を駆け巡った「食いしん坊」(←美食家とかグルメではしっくりこない)によるとっておきの食べ物おもしろエピソードが満載で、中には「三島由紀夫の蟹嫌い」を語るワンシーンも登場する。豪勢な感じの料理なら何でも気に入りそうな人だと思っていたけど、蟹嫌いは本当だったのね。

三島さんは果てし無く蟹を憎悪し、怖れ、その姿も厭だ、沢山の脚も厭だ、その味も厭だ、その厳つい甲殻が象徴する過度の防衛の姿勢が厭だ、あゝ、そして振り立てる鋏、それに字を見なさい、恐ろしい字だ、と蒼白になった。

・・・ホントにそう言ったのかもしれないけど、三島由紀夫のキャラをよくわかってらっしゃる描き方にニヤニヤしてしまった。そしてこの直後の團さんの一言に彼は「妙に瞳孔を開いたような顔付になった」のである。一体なにが!(続きは本書でどうぞ)


・・・続く


(2013年9月30日記)