an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

熱狂の日〜ラ・フォル・ジュルネ〜

「ラ・フォル・ジュルネ」(熱狂の日)と名付けられたクラシック音楽祭が、東京だけでなく新潟や金沢、そして私にとって馴染み深い琵琶湖のほとり、大津市でも開催されていることを知ったのはつい最近のことだ。

このフランス発祥の大規模な音楽祭は、「一流の演奏を低価格で提供し、幅広い層にクラシック音楽を楽しんでもらう場」であり、初心者や子供連れでも気軽に参加できるよう、ロビーでの無料ミニコンサート、素敵なカフェや数々の特設ショップ、野外体験プログラム(アートを絡めたゲームや工作、スタンプラリーなど)など演奏プログラム以外にも、多彩な催しとサービスが満載のイベントである。
しかも会場はあの美しい滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」。

ここまで間口を広げハードルを下げてくださっているのに(笑)素通りするなど愚の骨頂とばかり、(クラシック音楽の知識は中学生男子並だけど)はりきって出かけてみたのだった。


      


      


この音楽祭には毎年テーマが掲げられ(本家のフランスともリンクしているようです)、その中からよく知られた親しみやすい曲を、比較的短時間で終えるようプログラムが組まれている。大小複数のホールでオーケストラあり室内楽ありピアノ独奏あり・・・なにしろ低料金なのでこれらをいくつも選んで、その気になったら1日中でも楽しめるという寸法だ。これまでのテーマをチラリと振り返ってみると・・・


◆2005年「ベートーヴェンと仲間たち」
◆2006年「モーツァルトと仲間たち」
◆2007年「民族のハーモニー」
 (註:民族色豊かな音楽を生み出したエコール・ナショナルが集結)
◆2008年「シューベルトとウィーン」
◆2009年「J.S.バッハとヨーロッパ」
◆2010年「ショパンの宇宙」
◆2011年「タイタンたち」
 (註:後期ロマン派、ブラームスからリヒャルト・シュトラウスまで)

こうしてテーマを眺めているだけで、ヨーロッパの悠々たる大河の流れが見えるようだ。
春の日差しが注ぐその下流に、片足だけでも浸してみよう。さて、今年とテーマは・・・ 


      
  ◆2012年 −Le Sacre Russe− サクル・リュス (ロシアの祭典)◆


実は私が「行こう!」と勢いづいたのは、このテーマを見たときだった。
ラフマニノフストラヴィンスキーチャイコフスキーショスタコーヴィチ・・・・・・極寒の地も不遇のときも耐え忍び、芸術と政治に翻弄されながら生み出されたドラマティックで官能的な音楽を(←私にとってのロシア音楽家の端的イメージ)、オーケストラの豪華な音色でぜひ聴いてみたいと思った。初心者ならではの陳腐な発想とはいえ、芸術に触れるきっかけなんて案外みんなこんなもんじゃないかな(笑)。
・・・というわけで選んだのはこの演目。

ウラル・フィルハーモニー管弦楽団(指揮:ドミトリー・リス)&ボリス・ベレゾフスキー(ピアノ)
チャイコフスキーくるみ割り人形」より行進曲他
ラフマニノフピアノ協奏曲第2番 ハ短調

プーシキン」と名付けられた大ホールでの演奏だ(中ホールはドストエフスキー、小ホールはトルストイ、キオスクはディアギレフ!)。
くるみ割り人形」は聞き覚えのある愛らしいメロディが心地よく、繊細なリズムが、まるで目に見えるように一音一音クリアに響いてくる。バレリーナや異装のダンサーが踊りだせば幻想の世界がすぐそこに出現しそうな、イマジネーション豊かな曲ばかりだ。
そしてラフマニノフ!まさにロマンティックでゴージャス、クライマックスでは思わず椅子から乗り出したいような思いに駆られる。ピアノの美しさにももちろん圧倒されたのだけど、なんていうか・・・それぞれの楽器の音色と(特にストリングス)次第に溶け合ってゆくハーモニーが滑らかな絹のように聴覚を愛撫してくる、という感じで、夢と現実の間(あわい、と読んでほしいな)のような一時に、しばしうっとりしたことであった。

各会場は年齢層もさまざま、小さな子供や車椅子の人も含め大入満員、外では当日券を求める人で長蛇の列だ。あんまりよく知らないけど、ちょっとだけ聞いてみようかな・・・という人は思いのほか多いのだ。この音楽祭自体はおそらく赤字だろうが(どう考えてもチケットが安すぎる)、なんとか長く継続してほしい。
来年のテーマを今から楽しみにしている。



(2012年5月18日記)