an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

本の選び方

出版不況だそうである。
本が売れなくて困っているそうである。
ところで、街の大型書店にはどこでも「売れ筋ランキング」コーナーがある。 そのランキングの上位の本しか買わない、という人が少なからず存在する。
なので、出版社はこぞってランク入りをねらって、毎日毎日大量に出版している。(・・・以上 NHKクローズアップ現代」〜ランキング依存が止まらない〜より)

・・・そうだったのか。大変だなあ。
本が売れない売れないとは聞いていたけど、いつ行っても新刊本があふれんばかり、ことに話題になっている売れっ子作家の本ばかりが目につくのは、そういう事情だったのね。それにしてもだ。たくさんの人が買っている本だから私も買う・・・だなんて、なんとまあ子羊のように従順でいらっしゃること。
・・・いやちょっとまて。
このひねくれ者の私とて、たまさかに「C・クライバー指揮のオペラでも聴いてみるかな」とか「ホロヴィッツのピアノなんぞをひとつ」などと思った場合、即座にパタパタと検索をかけて売れ筋人気作品を迷うことなく購入するはずであり、人は未知の分野ではかように簡単に、子羊のように従順になるのであった・・・あ、いやそういうオチの話ではなく(笑)。

ランキング依存とまではいわずとも「たくさんありすぎて何を読んだらいいのかわからない」と言う方は多いはず。・・・アドバイスしましょう。
たくさん読んでいる人に聞けばいいのである。
身近な人でももちろんいいが、世の中には読んで紹介するプロ、というものが存在する。不特定多数のうさんくさいランキングより、プロの意見を聞こうではありませんか。
私自身、参考にしている人がたくさんいるのだが、ここは男女1人ずつ、驚嘆に値するその読書量に敬意を表して紹介することにしよう。(いわゆる古典的名作は対象外。そんなものは手当たり次第に読めばよろしい)

小説が好き、という方は、「文学賞メッタ斬り」シリーズで有名なトヨザキ社長こと豊崎由美さんの意見を一度聞いてみては。国内外の純文学もエンタテイメントもこなす上、書評もしゃべりも抜群に面白い。きっと読みたい小説が見つかるはずだ。・・・長編が苦手な私はなかなか手がでないんですけどね(笑)
小説も含めさらに幅広いジャンルも、という方は、ミスター・千夜千冊、松岡正剛さんの本棚を参考にしてはいかがでしょう。あなたのどんなリクエストにも即座にお答えしてみせましょう、と言わんばかりの博覧強記ぶり、ネットでも読めるので活用しない手はない。(しかし、残念ながら私はこの人の書評を一度も面白いと思ったことがなく、ほお、こーゆー本があるのか・・・というデータにするだけなんですが・・・)

ちなみに装丁がすばらしくハイセンスな本(新潮クレスト・ブックスとかね)、いわゆるジャケ買い、これも意外と成功率が高いので一度お試しを。
・・・本を選ぶ、というのは実は大変楽しいことなのである。
そういう意味で、冒頭で紹介した今の書店・出版社・読者の動向は間違っているね。


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最近読んで面白かった本です。

◆『<弱さ>のちから−ホスピタブルな光景−』鷲田清一

<弱さ>のちから

<弱さ>のちから

こういうジャンルに進出してらしたとは。鷲田先生、なにしろ『モードの迷宮』以来ですので。「ケアする・される」という関係性を、様々な職業の人たちとの対話により新たな視点で考察しようとする試みである。ユニークな仕事の人たちの意見はなかなか面白みも刺激もあるのだが、ケア、またはコミュニケーションという大変デリケートな個人的行為を扱っているため、若干の違和感を覚えるところも。何故そう感じたのかを考えている。

◆『柿の種』寺田寅彦

柿の種 (岩波文庫)

柿の種 (岩波文庫)

大好きな本だ。詩人の心と科学者のまなざしの奇跡的な融合。
(あっ、今思いついたが宮沢賢治もそうですね)
ショート・ショート風のものあり、アフォリズム風のものあり、ユーモラスなエッセイあり、ため息まじりのモノローグあり。やさしい言葉で書かれた珠玉の短文。
・・・眠れない夜に、少しずつ。

(2008年6月12日記)