an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

逍遥、彷徨、疾走

どんよりした曇り空の毎日・・・なにか気晴らしになるようなネタはないものか。
今日からウィンブルドン開幕。・・・だめですか。 
あのブレイクに勝ったり、あのナダルから1セットをもぎ取ったりとの快挙が続く錦織圭くんの活躍には心躍るものがありますが、それにもまして、それにつけても伊達公子である。「よう頑張らはるねえ」くらいにしか思っておられない方もあろうが、すごいですよあの人。
私は彼女と同い年である。そして大差はあれど同じスポーツをかじったことがある者として、身体感覚を伴った次元で、腹の底からすごい、かなわない、と思うのである。
数ヶ月のブランクでも足、全然動かなくなるし、サーブトスができなくなりますからね、今ラケットを握ろうもんなら5分のストロークで息も絶え絶えでしょう。(・・・ってそれは私だけか・・・?)
現役時代はクールなプレイヤーだったのに、妙ににこやかに子どもにテニスを教えたりして、なんだか腑に落ちなかったのだが、実はその青白いファイティングスピリッツが内に燻り続けていたのね。・・・彼女を見る度に「もう歳だから云々」なんていうセリフを真面目に、しかも言い訳がましく使うのは控えよう、と思ってしまう私なのでした。

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単語を3つ並べるタイトル、かっこいいと思うのである。
『無縁・公界・楽』(by網野善彦)であるとか『徴候・記憶・外傷』(by中井久夫)であるとか。『生命・宇宙・人類』なんてのもありました(埴谷雄高にしか許されないタイトル・・・)。
たぶん一生読まないと思うけど『サド、フーリエロヨラ』(byロラン・バルト)、『ゲーデルエッシャー、バッハ』(byホフスタッター ←誰?)なんてのもぐっときますね。
そういうわけで(?)、例によってテイストの全く違う本のイメージを無理やりつなげてみたのである。題して「逍遥、彷徨、疾走」。・・・あ、これもだめですか。

◆『図書館逍遥』小田光雄

ボルヘスがアルゼンチン国立図書館長だったことはあまりにも有名だが、バタイユがオルレアン図書館長だった、って知ってました?(しかも「悪魔とよばれた図書館長」!)
島尾敏雄奄美大島の図書館長だったのもこれまた有名だが、加藤典洋さんや阿刀田高さんがかつて図書館員だったとは知らなんだ。・・・まあこんなネタはほんのさわりで、図書館にまつわる歴史がらみ、文学者がらみ、古今東西裏事情などなど興味深い話が満載。
惜しむらくは軽妙エッセイのはずの文章がちと硬いところだが、このいかにも生真面目な硬さが、しめくくりの章である「盲学校と点字図書館」の中で著者の盲目の母のことを語るのに意外な光を放つのである。
図書館にノスタルジックな甘い思い出を持つ人も(・・・そんなドラマみたいな思い出が本当にある人はご一報ください)、そうでない人も楽しめる作品だと思います。


◆『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ

須賀敦子さんの翻訳です。端正で美しく、幻想的なイメージ溢れる文章には吸い込まれるような力がある。むせるような暑気と芳醇な空気漂うほの暗い地を彷徨し、翻弄される主人公。断片的な夢を見続けているような、物憂く、はがゆい感触。少しずつ夜が明けるような印象を与えつつも、実はどこまでもシニカルなラストシーンも秀逸。


◆『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男

感傷を一片も感じさせない、たたみかけるようなハードボイルドな表現で名もなき人間たちとすさまじい勢いで繁殖、増殖する半狼・軍用犬シェパードの数奇な運命を描く。戦場を縦横無尽に疾走するイヌたちの姿は圧巻。時折文体が謳い上げるような調子になり、劇画調のマンガが思い浮かばぬでもないが、うわさどおり巧いな、古川日出男。 一気に、読ませます。

(2008年6月23日記)