an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

N先生のこと

今はもちろん仕事中・・・ですが暇。
・・・小人閑居して不善をなす(拙訳:つまんない奴は暇だとロクなことをしねえ)という言葉がふと頭をよぎったが、つれづれなるままに大学時代の思い出小話を一つ。

その先生のことは特別好きでもなかったし、親しかったわけでも全然ない。
・・・もしかすると今の私とそう歳がかわらないくらいだったんじゃないだろうか。大学の教授にしては若くて、小柄で髪もサラサラなカンジ、その上物腰がなんだかおネエっぽかった。 コーヒーカップやマイクを手にするときはナチュラルに小指立たせます、みたいな雰囲気で、神経質そうだけど好きなことは熱っぽく語るタイプ。
忘れもしない、教科書は磯田光一鹿鳴館の系譜』。
ある日、N先生の余談から次のような単語が出現したのである。

    「ラファエル前派」

なに?らふぁえるぜんぱ?なんだそれは。
田舎から出てきたばかりの18、9のおぼこ娘がラファエル前派なんか知るわけない。目を白黒させていたら(私だけじゃないよな?)、先生は間髪いれずこう言い放ったね。
「そんなことも知らないの?バッカじゃないの!!」 当時はピチピチに若いし、こうしてちゃんと大学にも入ったし、まあ私もまんざらでもないなとか思ってる頃ですよ。あなたたちは優秀だ、という他の先生方のお世辞を真に受けることはあっても、まさかこんなにあからさまにバカ呼ばわりされるとは思いもよらなかった。
磯田光一は言うに及ばず、キャサリン・ヘップバーン冬のライオンピーター・オトゥール、ルー・ザロメ善悪の彼岸、ウィリアム・モリス・・・先生の口から出てくる人物、映画、何一つ知らない。聞いたこともない。
そんな私たちの反応を見る度に「ほんとに君たちは馬鹿だね!!」「いやんなっちゃうよ、馬鹿ばっかりで!!」と東京弁(←キツい!)でまくしたてられる。反論の余地まるでなし。
今思えば子供相手のオーバーアクションだったけど、そこには無知に対する軽蔑の視線がありましたよ、間違いなく。

・・・それが悔しかったというのではなく、自分が本当に何も知らない馬鹿者であるという発見は、ある意味新鮮だったな(←おめでたい)。
私が猛烈な勢いで映画を観始めたのはこの頃だったし、夏目漱石を好きになったのも『それから』のレポートでAをもらった(コメントが英語だったのもにくい)ことがきっかけだったかもしれない。こうしちゃいられない、みたいな気持ちになったわけです、こんな私が。・・・ということは、けっこういい先生だったのかしら。授業内容はいっこも覚えてないけど。

先生!今だったらあの授業にバッチリついていってみせるわ!
・・・って20年もかかってんなよ(笑)。

(2007年12月26日記)


>追記
・・・ラファエル前派にも詳しくなりましてよ(笑)。
一番有名なのはこのあたりですかね?