an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

Music Non Stop

80年代90年代のサブカルチャー・エキスをたっぷり吸って育った、いわば「サブカル女子のなれの果て」である妹は、自分が昔聞いていた音楽を、今でも子供と一緒に喜々として聴いている。
中でも幼児と最高に相性がいいのが電気グルーヴで、色鮮やかなアニメーションを思わせるカラフルな音色と躍動感あふれるテクノ・ポップを、チビたちはみるみるうちに覚えては歌いだす。
ポンキッキや教育テレビなどの子供番組では、ちょっとしたスキマによく彼らの曲が挿入されるらしく(ビートルズもよく使われますね)、あのキャッチーなメロディはたしかに全国の子供たちを引きつけそうだ。
子供の心をガッチリわしづかみ・・・これは、作り手がどちらかというと子供に近い、ということもありそうだな。たとえ中年太りしても白髪が増えてもスピリッツは永遠の少年・・・見習いたいものである。
彼らはもちろん大の大人にも人気でCDもチケットも売れ、今日びの厳しい商業音楽業界で着実にキャリアを積み、もはや大御所といっていい存在。

そんな日本のテクノ・マエストロ、石野卓球率いる電気グルーヴだが、この方々を前にしては、文字通り「尻の青いコドモ」と言わねばならぬ。



        クラフトワークのライブに行ってきました。


ご存じない方に一言だけ説明させていただくと、ご覧のような赤シャツ黒タイのロボットたちによる自動演奏・・・


             We are the robots!

・・・ではなくて。
機械、都市、コンピューター、スピーディーな乗り物(「アウトバーン」「ヨーロッパ特急」「ツール・ド・フランス」と幅広くおさえてます)等々インダストリアル・テクノロジーのイメージの一片を、不思議に美しい旋律で包み込み余計なもの一切をそぎ落とし、洗練の極ともいえる電子音楽を紡ぎだす、ドイツはデュッセルドルフからやってきた素敵なおじさんたち、それがクラフトワークである。
最先端機器を操る一方エコロジストで、70年代にそのものずばり「放射能」という曲を作った人たちでもあるので、イマドキの若い人だとそういう方面から知った方が多いかもしれない(はい、昨年の反原発イベントでは拙い日本語で「イマスグ ヤメロ」と歌っていました)。

前回のライブ(調べたら9年前でした)で大感激した私は、「次も必ず行く」と心に決めていたのだが、8日間連続(!)という信じられないような公演数の東京に比べ、大阪ではたったの1公演。つまり、西日本のクラフトワークファン全員をこの大阪なんばハッチ1日で面倒みるってこと?・・・無茶苦茶やな〜。
案の定指定席は光の速さで完売、やむなく1Fオールスタンディング(←カッコつけずに「立ち見」と言いなさい)を購入・・・とりあえず安堵はしたものの。
京都の老舗ライブハウス磔磔やRAGでの2時間すし詰め酸欠ライブ(タバコの煙付き)に果敢に参加していたのはもうふた昔も前のこと、ぎゅうぎゅう2時間立ち見はサスガにしんどいお年頃である。
しかもあなた、3D映像という特典ありとはいえ9,500円!!このゴージャス価格には一瞬軽い目まいがした(ドリンク代もあるので立ち見なのにいちまんえん・・・)。
だいたいライブチケットがこんなに高くなったのはいつ頃からだろう。私が頻繁に行っていた頃は(繰り返しますがふた昔前です)日本人ミュージシャンでだいたい3,000円台、外国人でも6,000円くらいだったと記憶しているが、今は前者で軒並み5,000円以上するようだ。これじゃ「あんま知らんけど、ちょっと観てみっか!」みたいなノリでは買えないよなぁ・・・

・・・とまあ、行く前からいろいろと不満要素があったのだが、ライブはもう本当に、涙もののすばらしさだったのである。

別に3D映像なんていらんよなあ、メガネだって鬱陶しいし・・・と思っていたのが、これが想像以上に楽しかった。ビルやら音符やらネオンやらいろんなものが飛び出す、飛び出す。
それがまた「最先端だぜ、カッコいいだろ」的な気取りが全然なくて、やけにフラットで単調なアニメーションだったり、一昔前の宇宙船内っぽかったり、ロシア・アヴァンギャルド風だったり、「ハイテクなのに懐古趣味」とでもいいたくなるような、涼しい顔してベタなことをするという、いかにもクラフトワークらしい計算され尽くした演出は心憎いばかりだ。

一度聴いたら印象に残る短いフレーズを、少しずつリズムとアレンジを変えながら「反復する」音楽というのは(「ボレロ」とか、スティーヴ・ライヒとか)、どうかすると陶酔を伴うトリップ感を誘うもの。その上にまたなんというか、前頭葉あたりに固まった凝りをほぐしてくれるような、「そこそこ、いいわ〜」的な、腕のいいマッサージの快感に近いものがこみ上げる。
身体の内部にまで浸透するこの感じは生演奏ならでは高揚感で、低音がドスンと腹に響くし、高音はキラキラと玉のように光って溢れる。まさに、これこそ至上の時。

9,500円?安いもんだ!! (だが次回は指定席を死守する)


(2013年5月21日記)