an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『プラネタリウムを作りました』大平貴之

著者の太平さんはマスコミにしばしば登場したり、本作がドラマになったりして、かなりの有名人らしいのだが、全然知らなかった。私は山形“毒舌”浩生の書評で発見、辛辣極まるこの男が手放しで絶賛していたので驚いた。・・・さてはあなた、「モノを作る人」にぐっとくるタイプだね。気があうなぁ、私もそうなんだよ。

素人同然の一個人の分際で、プラネタリウムを、ドーム中央に鎮座するあの精密機器を、自宅で作り上げちゃったのである。しかも、前代未聞の100万個を超える星を投影するスーパー・プラネタリウムだ。(普通は2〜3万個だそう)
・・・あなた、私と同い年ですよね。ってことは、大学時代にはまだおりこうな計算ソフトも、素晴らしく便利なインターネットもなかったはずですわね。そんな状況でですよ、全天32分割のレンズの角度や屈折する光の経路の計算、膨大な座標軸を数式に置き換えるデータの算出を手作業でやってのけ、部品がないと言ってはメーカーのカタログをかたっぱしから調べ上げ、金がないと言っては自分で部品を作り、あげくにホコリ対策のためのクリーンルームまで自宅に作ってしまうのだ。・・・さらに圧巻なのが数センチの円板に最小0.01237ミリという無数の穴(投影される星の一つ一つ)をあけていく工程だ。詳細は本書を読んで、この感動的なまでに無謀な挑戦と情熱、失敗と成功の過程を目の当たりにしていただきたいと思います。軽いめまいが伴うほどの感嘆を、一度ならず味わえることをお約束しましょう。

後半では評判を聞きつけた様々な人たちのサポートを得て、文字通りサクセスストーリーになっていくので(それはそれで爽快なのだが)、上述した前半部の「アストロライナー」「メガスター」製作奮闘記が特に楽しめると思う。おそらく、文章を書き慣れていないのであろう、全編淡々、訥々とした語りである。だが、そのささやかな表現から「なぜ、プラネタリウムを作り続けるのか」という私たちの問いかけに対する著者の回答がほの見えてくるような好著だ。何年も行っていないプラネタリウムに走って行きたくなります。おすすめ。
(2007.7.31記)


>追記
・・・未だに彼のプラネタリウムは見ることができず・・・
全国各地を回っているらしいんですがねえ。