an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

観た映画とか

さて、締めくくりは「連休中に観た映画つながり」

◆レオス・カラックス『ホーリー・モーターズ』◆

まるで近未来都市みたいなピッカピカのグランフロント北梅田を呆然と眺めつつ、スカイビルにて鑑賞。
パリ市内をゆっくりと進む白いリムジン、そこには疲労した面持ちの一人の男。彼は女性運転手の指示するスケジュールどおりに、富豪の銀行家からホームレス、内気な娘を案じる平凡な父親から奇矯な殺人者・・・あらゆる境遇の人生の断片、ワンシーンを演じては去ってゆく。リムジンは、いわば舞台袖であり変身装置。
「(登場する複数の人格は)喜びや欲望、苦悩そして後悔がこめられた人生のアバター・・・人生は終わりなき舞台」・・・チラシに踊るこの文言に、「今回はずいぶんわかりやすいモチーフにしたんだな。ってゆーか、この設定はちょっと陳腐なんじゃ・・・」とまず思った。カラックスらしくない。
『ボーイ・ミーツ・ガール』、『汚れた血』、『ポンヌフの恋人』(『ポーラX』はようわからん)、ひりひりするような危うい緊張感とfragile、まさに一心不乱に疾走するような青春映画を撮ってきたカラックスも天命を知る50代、どうやら以前の作品群とは異なる手法で新しい手応えを掴むのに成功したようだ。
まさかの「メルド」の登場をはじめ、ラストシーンに登場する「実家」の同居人といい、人を喰ったようなリムジンたちのエピローグといい、観る者に微苦笑を誘うサービス精神(というか、ある種の余裕)が随所に感じられたのは意外でおもしろかったし、現実と架空がお互いを侵食するかのように、唐突に舞台(≒物語)が切り替わるさまもなかなかシュールで魅惑的だ。
そして、なんといってもまったく予想出来ない物語のミステリアスな展開とそれぞれに鮮烈な印象を残す登場人物たち、美しいパリの夜と甘い裏声・・・好き嫌いがハッキリ別れる作品だろうが、私にとっては、「映画を観る楽しみ」に充分応えてくれた作品だった。
寡作で有名な監督だからここ十年くらいは撮らないだろうが、またこんなふうに「予想外」を楽しませてほしいな。
  
路上を闊歩するアコーディオン野郎たち。音楽の力もあって名場面の一つ。





◆スティーブン・スピルバーグリンカーン』◆


この作品も予想外といえば予想外だ。
スピルバーグリンカーンの伝記映画を企画している」という話は何年も前に聞いたことがあって、南北戦争の活劇と奴隷解放の偉人ぶりを描いた“文科省推奨”みたいな映画だろうと思い込んでいたし、あまつさえトム・ハンクス主演と聞いていたから、「あはは、そりゃダイエットが大変や」と思ったくらいで特に関心はなかったのだ。
ところがこの作品は、「どのようにして南北戦争終結させるか」を主軸に、民主党共和党の互いの思惑が複雑に絡み合い、水面下でのあの手この手の駆け引きを丁寧に描いた、いうなれば「2時間半の会話劇」で、それはもう大変に地味な作品だったのである。
特殊効果を使った映像や派手なアクション好きとばかり思っていたスピルバーグだが、この道のプロとしての懐の深さと一級の表現力(カミンスキーのカメラがまた!)、最高のキャストによる演技合戦を堪能できる、陰影深く格調高い作品に仕上がっていた。

国家の一大事に家族の不和、悩み多き大統領リンカーンを演じるダニエル・デイ=ルイス(T・ハンクスだったら一体どんなことに・・・汗)、演技はいうまでもないが、この人は本当にすばらしい顔をしていますね。疲労と慈愛が滲む横顔に、匂い立つようなエレガンスが漂う。
3回目のアカデミー賞をとった時は「えええ、またかいな・・・」と幾分白けたものだが、これだけの演技をされたらとてもかなわないな、と思ってしまう。

冗談が好きで周囲の人に繊細な心配りができる上、抜け目のない戦略家でもあり、リーダーとして人を引きつける能力を生まれながらにして持っていたのだろうなと思わせる人物、大統領リンカーン。・・・今の日本の政治家にないものばかりだ・・・思わず遠い目に。



(2013年5月7日記)