an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

イーハトーブ旅日記〜その③〜

北上市から南下、奥州水沢、平泉を経由して一関へ向かう。

藤原氏の栄華が花開き、義経が非業の死を遂げた地・・・奥州は歴史のロマン渦巻く地域だ。東北に侵攻してきた坂上田村麻呂率いる朝廷軍と、それに抵抗した蝦夷の軍事指導者アテルイ(この名前、アイヌ人っぽいなあ)との交戦が繰り広げられたのもここ奥州一帯。

            ↓ 蝦夷の大将アテルイ

              

私なんかは「う〜ん・・・たぶん外見は日馬富士みたいな感じの、粗野な大男だったんでないかい」などと思うのだけど、「まあよくわかんないことだし、ここはカッコよかったことにしておこう!」というのが世の趨勢、来年放映されるというドラマ「火怨・北の英雄アテルイ伝」では、大沢たかおさん(←阪神の鳥谷にちょっと似てる俳優さんで合ってます?)がアテルイを演じるそうだ。・・・かなり洗練された「悲壮のヒーローの物語」になりそうですね(彼は降伏して処刑されたため)。

さて、限られた時間の中で先を急ぐ身でありながら、ここまで来たらどうしても寄っていきたい場所があった。(『風雲児たち』愛読者ならば、あるいは吉村昭『長英逃亡』に興奮した人ならばこの気持ちをわかっていただけるのでは!)


          そう、奥州水沢「高野長英記念館」!


      

・・・実は私が訪れた日は休館日だったのだが(!)、なにやらドアが半開きになっており、人の気配が。そこで未練がましくのぞいてみたところ、人のよさそうな年配の女性があらわれ「今日は展示品の入替作業でね。でも遠いところをわざわざ来てくれたのだし、散らかっているけれど、よろしければ・・・」とのありがたいお言葉を頂戴した。汗をかきかき(←空調を止めて作業されていたため)、肖像画や獄中でしたためた手紙、彼の足取りを丁寧に追った日本地図、その幅広い人脈を図解したものなどをボンヤリ眺めながら、前述したアテルイもそうだったけれど、「誰かに支配されるなど真っ平ごめん」という人物がいかに生きにくい世であったことか・・・と薄暗い館内でしばし瞑目。
スタッフの方にお礼を言い、駅へと急ぐ。
町中にある“国民の生活が第一”な方のにこやかなポスターを横目に苦笑しつつ・・・

平泉駅から程近い毛越寺へ。
大きな池を中心にした広々とした庭園が見事で、ここになんらかの艶やかな色調(たとえば新緑、桜、紅葉、雪化粧・・・)が加われば、極楽浄土もかくやという風景が出現することだろう。


      

      

      

9月は萩が見どころとのことで、その地味な姿がお寺に溶け込んでいて、ひっそりと落ちついた風情だった。これもまたよし。


中尊寺は山腹の道をゆく。けっこうな勾配の月見坂をどんどん進む。
途中に石碑や鄙びたお堂や能舞台などいろんなものがあって目移りするが、まず本堂へ。


      

           さすがに立派なお姿です。


そして中尊寺といえば金色堂
で、私は実際に見て初めて知ったのだけれど、金色堂はお堂の屋根ごとケースに入っているものなのですね。それもあってか黄金に輝く国の宝を前に、しばらく「コレって本物?」という阿呆のような戯言しか浮かんでこなかった(一瞬模型みたいに見えたというか)。
正気を取り戻して(笑)熱心に見入るとちょっと言葉を失うくらいの豪華さなのだが、例えば写真で見るような“キンキラキン”なきらびやかさとは少し違う印象だ。
ここは照明を落として思いのほか暗く、見る角度によって様々な陰影を作り出し、仏像のフォルムや細工の繊細さ、優美さを一層引き立てるようで見飽きることがない。
やはり平日でもけっこうな人出で、ゆったり腰をすえて隅から隅まで、というわけにはいかなかったが、充分に楽しむことができた。


せっかくの機会なので、めったに公開されることがないという秘仏も見ることに。

      

こちらは人肌に模した風合いを持ち、とてもやさしい表情をなさっている。
今回の旅のいい締めくくりとなりました。


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≪おまけ≫

帰りは仙台空港。岩手から来ると、仙台があまりに都会でクラクラしました。
半日ばかり時間があいたので、「洲之内コレクション」を観に宮城県美術館へ。


      


      

うーん、もう少し早かったら松本竣介が観れたのだが・・・残念!
しかしコレクションの中でも最も観たかった一つ、「ポアソニエール」を観ることができたのでよしとするか。思ったとおり、小ぶりで愛らしい作品である。きれいな水色、憂い顔の美女・・・


チンタラ続いた旅日記、根気よくお付き合いいただき誠にありがとうございました。


                        ≪完≫  



(2012年10月2日記)