an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

幸福ってなんだっけ。

フランス映画『幸福(しあわせ)』を観る。監督はアニエス・ヴァルダ。

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  • ジャン=クロード・ドルオー
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なんでまた今頃60年代ヌーヴェルバーグの恋愛モノ(実は苦手・・・)を観たかというと。私は町山智浩さんの映画評ポッドキャストを愛聴しているのだが、毎回B級映画を俎上に下ネタ絡みのバカトークを繰り広げているというのに、この映画評では「・・・これはね、怖い怖い映画ですよ。ホラーより怖い」と淀川長治風に声を潜めて語り始めたのである。世界中のエグい映画を観まくっているアナタが怖いだって?ヌーヴェルバーグといえば、小粋で知的な映画の代名詞でしょうが・・・と興味を持っていたら、先日たまたまBSで放送されたのである。おおなんとタイムリー!

若く美しい妻と天使のような子どもたちといい仕事に恵まれ、夢のように幸福な日々を過ごすフランソワ。ところがある日、都会的で情熱的な女性と恋人関係になってしまう。その事実をためらいながらも妻に告白、「2人の女を愛して僕はとても幸せだ。この愛を止めるなんてバカげてる」などと言って、こともあろうに家庭生活と愛人関係を両立させようともちかける。妻はさほど取り乱す様子もなく、「あなたがそれで幸せなら、私も幸せよ」と微笑むが・・・。

       

ソフトフォーカスで撮られた田園風景は眩く美しく(ピエール=オーギュストとジャン、両ルノワールから多大な影響を受けているとのこと)、それに対応する街のポップな色遣いとカメラワークの面白さに見どころが多いけれど・・・なんともいやな話だねえ、これは。ある種の鈍感さ(無邪気とはいわせないよ)は時に人を死に追いやることさえあるというのに、そこには一片の悪意も、悔恨すらないのだ。醜いエゴや、誰にも気付かれることのない犠牲の上に成り立っているかもしれない「幸福」。町山智浩が「胸がむかつくような違和感」と表現したものを「幸福」と名づける監督の、このアイロニー
説明的な描写が一切されない、ある意味不親切な作品なので、人によって様々な解釈が成り立つことでしょう。いろんな人の意見をきいてみたいところです。

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ところで「幸福」の何たるかを語った書物・格言の類は古今東西あまたあるものと思われます。・・・が、著者がこの人でなければ手に取ることはきっとなかった。
福田恆存『私の幸福論』。

まっすぐこちらの目を見据えたような誠実でやさしい口調でありながら、内容は鋭く辛辣で大いに面食らいます。
「唯一のあるべき幸福論は、幸福を獲得する方法を教へるものではなく、また幸福のすがたを描き、その図柄について語ることでもなく、不幸にたへる術を伝授するものであるはずだ。」中野翠が解説で取り上げたこの言葉をかみしめつつ、ぐるぐると低空飛行を繰り返し、読者が己の力で高度を徐々に上げていく・・・そんな感じの本です。

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前述しました「幸福論」もそうですが、このところちくま文庫から目が離せません。
波乱万丈の人生だと自ら言いたがる人は世の中に大勢いるわけですが、まごうかたなき正真正銘の「波乱万丈」をちくま文庫から選んでみました。ご賞味あれ。

◆『田中清玄自伝』

インタビュー形式なのでサラッと読めますが、そのサラッと話す内容がものすごい。度肝を抜かれます(笑)。“謎に包まれた大物フィクサー”という禍々しいイメージとは裏腹に、「公明正大」とか「正々堂々」といった言葉がふさわしい快作(怪作?)。

◆『「芸能と差別」の深層』

俳優の三國連太郎民俗学者沖浦和光の丁々発止の対談集です。
「生きざま」という言葉が頻発されるのには少々閉口いたしますが、三國連太郎の「万事行き当たりばったりなのに思い込んだら命がけ」的な性向には驚くやら呆れるやら。タイトルに関心をもたれた方にももちろん楽しんでいただけると思います。



        ねーこは  コータツで  まーるくなる〜♪ 

       

       

         ・・・幸せそうで何よりだ。

(2008年11月20日記)