この政治的、社会的、日本のすべての方面にとって、重大な意義をもった年に、近代日本文学の大立物となった人々がまるで誘い合いしたように、ぞくぞくと生れて来ているのは、そこに一種の天意、天の配剤といったようなものが働いているのではないか
天意のもとに、同じ年に生れた七人の侍ならぬ七人の旋毛曲りをご紹介しましょう。・・・夏目漱石(大好きです)、宮武外骨(スコブル「過激にして愛嬌あり」)、南方熊楠(この人を輩出したというだけで和歌山県はあなどれない)、幸田露伴(はっ、一つも読んでないっ)、正岡子規(『仰臥漫録』には度肝を抜かれましたぜ、旦那)、尾崎紅葉(貫一お宮・・・はて、どんな話だったっけか)、斎藤緑雨(きれいな名を持つ毒舌コラムニスト)
本書はこの錚々たる七人の男たちが、近代日本の、そして近代日本文学の黎明期であったエネルギッシュな時の中に生きて悩み、よく遊び、ある者は家を飛び出し日本を飛び出し、ある者は生き急ぎ、それぞれに得難い交流を結んだり、近くにいながらにしてすれ違ったり・・・疾風のような青春を描いた、壮観にして愉快なクロニクルである。上述したように、明治文学なんぞロクに読んでいない私でもとても楽しめた。
頻繁に引用される雅俗折衷体の読みづらい文章に四苦八苦しながらも、明治の男の勤勉実直ぶり、さらには20代にしてなんたる早熟、なんたる老成と目を見張ることしきりなのだが、本書ではそういう学問や文学に対する硬派な面だけでなく、熊楠の賄征伐(ま、子供の悪戯みたいなもんです)や子規のカンニング話、外骨の投獄の顛末、紅葉や緑雨の芸妓遊び、淡島寒月だの朗月亭羅文だのといった奇人との交流など軟派ネタも盛りだくさん。当時の出版界や新聞ジャーナリズムに関わる人々も、なんとも興味深い人物ばかりである。
著者は七人男の素の人柄を伝えるエピソードや艶話には特に興味津々のご様子で、喜々とした狂言回しぶり、このボリュームで、このシブい登場人物で読者を最後まで飽きさせないのは大健闘である。
・・・今回はなんとなく女性におすすめしたいな。
この人たち、隣にいるダンナや彼氏やドラマに出てる俳優より断然かっこいいよ。
(2007.9.25記)
>追記
明治文学オタクであり、コラムニストの中野翠さんの友人でもあるらしい坪内氏。
いろいろと教えてもらってます。