- 作者: 徳岡孝夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1996/11
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログ (1件) を見る
この作品は文壇の外の人間、聡明な観察者たるジャーナリストによる仕事である。著者は三島由紀夫が決死の『檄』を託した、数少ない信頼に足る人物の一人であった徳岡孝夫。
何度かのインタビューや直接かかわったエピソードを通して、最後まで「彼は元大蔵事務官の素性を失わない、素面の常識人だった」として、一歩ひいたスタンスから冷静なまなざしで筆を進めている。そして、しばしば直面する困惑(時には反感)するような言動や、いいようのない違和感から他者の揺れ動く感情を探り、その死を、孤独を考察する。
「60年代の「造反電気」とでもいうべきものに帯電し、ビリビリ震えていた」東アジアの空気を要所におりまぜつつ、「その時」へと至る場面は圧巻である。著者とともに現場に立っているような錯覚におちいり、しばし呆然としてしまう。
そうか、そうだったのか・・・うまく説明はできないけれど、そこに確かに血のかよった一人の人間の姿が浮かび上がるのだ。三島由紀夫は、狂気の暴徒ではなかった。
とにかく一気に読ませる無類に面白い作品である(関川夏央による解説も秀逸)。
三島由紀夫に特に関心がなくても充分楽しめると思うし、ジャーナリストという、現場に生きる気骨の士を目指す方にも一読をおすすめする。
(2007.5.9記)
>追記
この本は私の三島由紀夫観に大きな影響を与えまして、今を以ってとても興味深い作家の1人として追い続けています。
徳岡さんの本ではこちらもおすすめ。
- 作者: 徳岡孝夫
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 5回
- この商品を含むブログ (7件) を見る