an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『日本の霊異ナ話』伊藤比呂美

日本ノ霊異(フシギ)ナ話 (朝日文庫)

日本ノ霊異(フシギ)ナ話 (朝日文庫)

例えば、聖書や古事記のエピソードの一つをモチーフとしてセクシャルな小説を作ることを試みる・・・そこに描かれた性は大らかで謎めいていて、さぞかし物書きの脚色意欲をそそるだろうと思うのです。
しかしながら『日本霊異記』。日本史の授業で見たような見なかったような・・・。家に岩波の文学大系があったので(←何故ある!?)チラッと見たところ、前世でこれこれこーゆーことをしたがために、こんな因果なことになっておるのだよ・・・というような、ま、抹香くさい話なわけですよ。そんなエロスの対極にあるような日本最古の仏教説話集を、これほど大胆にエロい小説に仕上げた詩人の妄想力に乾杯(笑)。いや、ホントに感心しました。

山は深く、崖は険しく、海は広くて大きく、月はのぼり、日はしずみ、人は獣と交わり、死者と正者が、海から陸へ、陸から海へ、縦横無尽に行き交いめぐるところであります。

薄暗く雨でじとじとしたところで死んだ者がふいに現れ、女は肉団子を産み落とし、天女は人間を誘惑し、蛇は少女を襲う・・・静かな語り口調ながら、混沌が臭気を放っている感じがします。かなりユニーク、一読の価値ありと私はみましたが、いかがでしょうか。
(2006.6.25記)


>追記
子育てドタバタおもしろエッセイを書いていたのも今は昔。
ここ最近はもっぱら「老いと死」に関心が向いていらっしゃるご様子です。
これなどもすごかった。

とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起

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