an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『草の花』福永武彦

草の花 (新潮文庫)

草の花 (新潮文庫)

歳をとるということは大体において不愉快なことが多いわけだけれども、若いときには全然わからなかったことや気付かなかったことが、徐々に霧が晴れるようにわかるようになってくる。人の心の不思議が。
歳をとるのも案外悪くねぇかもな・・・とつらつら思うのはこんな時。

そんなわけで、30代以上の皆様に、昔々に読んだ青春文学の古典を再読することをおすすめする。夏目漱石『こころ』、森鴎外舞姫』、谷崎潤一郎春琴抄』etc・・・。必ず、昔とは違った貌を見せてくれるはずである。
 
やたらとセンチメンタルなサナトリウム文学・・・そんな印象しか残っていなかった本作の再読で、私は久しぶりに胸をしめつけられるような思いを味わった。若さゆえの鼻持ちならないエゴイズムとひたむきな求愛・・・そして、決して癒えることのない孤独。    

   藤木、と僕は心の中で呼び掛けた。
   藤木、君は僕を愛してはくれなかった。
   そして君の妹は、僕を愛してはくれなかった。
   僕は一人きりで死ぬだろう・・・・・・。

最近、難病の恋人を抱きかかえながら「助けてくださぁぁぁい!!」なんてわめく小説がはやっていたようだけれど(未読。間違ってたらスイマセン)、主人公を叫ばせているようではまだまだ青い。苦しい愛は、声にならないのだ。
(2006.8.19記)


>追記
私は普段あまり恋愛小説を読まないのですが、時々こういう古風な恋愛ものにぐっとくることがあります。不意打ちに弱い。