長身の弁士が黒のフロックコートを着て舞台に現れ、右手で天を指して言う。
「天上天下唯我独尊、頗る非常大博士!」
そして語りだす。
「・・・頗る非常に大勢の方においでをいただきまして、座員一同頗る非常に喜んでおります。今晩は頗る非常に面白い写真を揃えてあります・・・・・・」
なんでしょうか、このあやしい口上は。
男の名は駒田好洋、自称「アメリカ帰り、エジソンの弟子」、明治期に日本中を席巻した活動写真の人気弁士である。交通手段がまだろくに整っていない時代に、北は北海道から南は九州まで日本全国を隈なく巡業で回った。
前川公美夫・編著『頗る非常!怪人活弁士・駒田好洋の巡業奇聞』は、昭和初期に新聞に掲載された巡業回想録全文を読みやすく編集し、詳細な解説を施したものである。
地域の風俗・特色が垣間見られるところも本書の魅力の一つだ。土地によって人の様子が違うしウケる出しものが違うし、宣伝や割引や支払いの習慣がそれぞれバラエティに富んでいる。いやいやこの時代、日本は実に広かった。
さて、著者は元新聞記者で北海道の音楽史などを中心に書いてきた人だそうだが、この駒田好洋なる御仁、とにかく大風呂敷広げたがる自他共に認めるホラ吹き男であるから、興行をした年代や地名や関係者の氏名、さらには起こったとされるアクシデント自体が事実かどうか疑わしいところがある。なので綿密な事実確認調査(現在の約45%にあたる自治体を調査した、というのだからどれほど徹底されたか推して知るべし)を行なっているのだが、その「私的解説」のなんと読み応えのあること。映画評論家でもある柳下毅一郎が「新聞記者でなければとてもできない仕事」と賞賛していたけれど、読み物としてだけでなく、資料としても一級品なのではなかろうか。
『ボン書店の幻』を読んだ時も思ったけど、「人が人を呼ぶ」運命的な出会いって(男女じゃないところがミソ・・・)あるものなのねえ・・・と感嘆しつつ思った次第。
500ページ上下段というボリュームに加え、歌舞伎役者名や芝居の専門用語がどんどん出てくる(かたっぱしから解説されています)ので、興味のない人にはちょっとキツいかもしれないけど、私のように畸人に目がない方や、日本の映画史、広くは近代芸能史に興味がある方にはとても楽しめると思います。ぜひ!
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デヴィッド・リンチ監督『インランド・エンパイア』。
録画してあったものを3日ほどかけて観る。
とうとう最後まで波長あわず、といったところ。次に期待。
・・・で、今年のオスカー。ミッキー・ロークとヒース・レジャーの受賞なるか・・・が一番の見所であると思われますが(そうか?笑)、さてどうなりますか。
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京都は北野天満宮より・・・春の香をお届けします。
(2009年2月16日記)