分厚い伝記は苦手だし、かといって柴田南雄さんや吉田秀和さんの著作はいかにも敷居が高い。名文家と名高い武満徹さんのエッセイだって、そうそうさらりと楽しく読めるようなものではない(・・・と思う。私にとっては)。
音楽について書かれたエッセイやノンフィクションを、肩肘張らずに楽しみたい・・・と思ったなら、さて皆さんはどんな本を手に取られるでしょう?
ふとそんなネタを思いついたのは、T・E・カーハートの『パリ左岸のピアノ工房』の世界にすっかり魅了されたからだ。ひょんなことで知合ったピアノ工房の職人リュックとの交流によって、幼い頃挫折したピアノへ最初はおずおずと近づき、やがて夢中になっていく著者。
何事においても舞台裏を知るのは楽しい。世界的権威を誇るコンクールの審査員を務めた人が語るものであればなおさらである。そういう意味で中村紘子さんの『チャイコフスキー・コンクール』は面白い本だった。
列挙される大作曲家たちの美しい曲名(ほとんど知らんけど・・)に演奏を思い浮かべてうっとりしたり、次々と登場する風変わりなピアニストたちにわくわくしたり。 当時は耳慣れない言葉だったし、「おおっ、まるで超能力!人間ってすごい!」と興奮したことを覚えている。幅広く丁寧に取材されていたし、後半の五嶋みどり・龍の姉弟物語もなかなか読み応えがあったな。▼▲▼▲▼
その全盛期をリアルタイムで追っかけていたわけではないし、アルバムはベスト盤を含めてせいぜい5、6枚しか持っていない・・・が、初来日公演の時には東京ドームまで駆けつけたし、その後大阪ドームにだって行きました。
「All you need is love」より「we love you」、ただ単純に、彼らのかっこいい曲が好きで。ゴダールの退屈極まる映画『ワン・プラス・ワン』だって最後までちゃんと観ましたよ。
その彼らのライブ映画と聞いた時は、さすがに歳も歳とて「まだまだ俺たちイケてます!」的なプロモーションものの類であろうか、ご苦労さんなことであるなあ・・くらいにしか思わなかったのであるが、撮ったのがマーティン・スコセッシというのだから捨ておくわけにはいくまい。『ミーン・ストリート』の、『タクシー・ドライバー』の、『レイジング・ブル』の、あのスコセッシである。そういえば映画によくストーンズの曲を使っている。
・・・ひょっとしてただの一ファンか、マーティ。
驚いた。・・・まずその顔に目を瞠る。見事な皺、皺、皺。キース・リチャーズなんてまんま魔法使いの婆さんみたいだし。これはもう、芸術的顔面と言っていいのでは。
そしてその身のこなしの軽やかなことといったらどうだ。カメラが引いていたら65歳にはとても見えない。信じられない。まるで野生動物の跳躍を思わせるようなしなやかな身体、衰えを微塵も感じさせない声、リズム。
中野翠がミック・ジャガーを「騎士が女王やレディに向ってする深々としたお辞儀、あのテのお辞儀がすごくよく似合う」と言っていて、心の中で大きく手を打ったものだ。ワイルド&エレガント。・・・今時、俳優にだってめったにそんな人いないよ。
・・・今更ストーンズでもなかろう、と思っているそこのあなた、
まあ騙されたと思って一度観てごらんなさい。もちろん、スクリーンで。
Directed by Martin Scorsese
The Rolling Stones
IN
『SHINE A LIGHT』
(2009年2月5日記)