時々妹のところに行って、昨今の流行りものの是非からヘナチョコ政治談議、日常の悲喜こもごもにいたるまで、丁々発止の辛口トークを繰り広げることがあるのだが、辛辣さにおいて私をさらに上回る(?)この女と、先日次のような意見の一致をみた。
曰く、「いい歳をして、愛だの愛しているだのといった言葉を口にするような男はあんまり信用できない」。・・・・・・ま、これは少々悪ノリした戯言にすぎないけれど、時と場合と使い方と言う人間によってはとんでもなく陳腐な、空疎な言葉に成り下ってしまうことがままある・・・というような感じはわかっていただけるのではないかと思う。
例えば詩のような分野において、この言葉を多用するなどは表現者として野暮の骨頂・・・と思っているところへ、『ボマルツォのどんぐり』(扉野良人著)という本を読んでいたら、戦前のモダニズム詩人である永田助太郎という人の、ずばり「愛は」いうタイトルの詩が。
これがですね、悪趣味ぎりぎりの天真爛漫というか、グロテスクな稚気というか、 思わず笑ってしまったので、ちょっと紹介してみよう。
愛は
みんなの王様ョ みんなの王様
最初に混沌あり
次いで鳩胸の大地と
エロス エロスうまれたりとナ
オオ ララ オオ ララ愛は 愛は
たまつたところから
ヨリたまらないところへ流れいること
糸を伝つて流れいる盃の水のやうなら
心をぶちまけてぶちまけて
血をまぜたい 血をまぜてまぜて
奴隷になりたいナ 奴隷になりたい
オオ ララ オオ ララ愛は 愛は
ギリシア十字形ョ ギリシア十字形
山羊はエニシダのあとを
狼は山羊のあとを
鶴は鋤のあとを
TaroはHanakoのあとを
モラルは科学のあとを・・・・・・
苦役だ 苦役
オオ ララ オオ ララ
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後半の展開がさらにすごいので全文引用したいのだが、長いので断念。
歪な形に膨らみ続けるイマジネーション、思わず口ずさみたくなるリズミカルな言語感覚。
あえて「愛」という手垢にまみれた言葉を使うのならば、これくらいアクロバティックな表現をやってのけてほしいものである。・・・などと偉そうに書いてしまったが、実は詩なんてほとんど知らないのでありまして、「愛」が大いに絡んでいるにもかかわらず(笑)、唸らせるほど見事な詩をご存知の方はぜひ教えてほしいです。
本書では、他に取り上げている人物も微妙にマニアックで(辻潤、田中小実昌、高野文子と中野重治、田畑修一郎、川崎長太郎etc・・・)、上述した詩に対する鑑賞眼も切れ味鋭く、知的で思慮深い好エッセイだ。ボマルツォといえば怪物、がまず思い浮かんだ澁澤龍彦ファンのあなたも手にとっていただき、この詩の続きを読んでみてほしいと思います。
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