an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『珠玉』開高健

珠玉 (文春文庫)

珠玉 (文春文庫)

ベトナムから帰ってからは酒飲んで釣りしてるだけの小太りオヤジやん〜などと侮っていました開高健。すいません。これを読んで反省。

どことなく焦燥感と倦怠感をにじませる初老の小説家が、微酔しながら遠い過去の記憶を思い起こします。海をめぐる喪失の物語・アクアマリン。酔狂な中国人と血の物語・アルマンダイン・ガーネット。ムーン・ストーンに漂う白い宮殿の幻想・・・このように3つの物語には宝石が、深い深い記憶の底に沈殿した物語に光をあてるように登場し、微量の酒がそれに艶を与えています。
「さびしいですが、私は、さびしいですが、」と失ったものを嘆いて嗚咽する高田先生の姿が心に迫る「掌のなかの海」も印象的ですが、圧巻なのはやはりラストの「一滴の光」でしょう。求めていたのは幻想の白い宮殿などではなく、今目の前にいる輝く滴をふりまく生身の「女」であったと。
本作は著者の絶筆となりました。これは、ちょっとかなわないなと思ってしまう。
30代40代なんてホント青二才。歳を重ねないとわからないことって、やっぱりたくさんあるんですよね・・・。
(2006.3.7記)


>追記
ベトナムもの、オーパもの・・・なかなか手が出ない状態です。読みたいんだけどなあ。
この人もとても人気があって、埋もれていた対談集や名言集っぽいものも次々と出ている様子。