an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

『私の岩波物語』山本夏彦

  ≪編集する人びと・その四≫

一刀両断、単刀直入。心に抜き身の刀を持った大人(たいじん)です。温厚な好々爺にしか見えないのに、これだから老人は油断ならん。
著者はインテリア雑誌である『室内』の編集者でもありましたが、この書は岩波書店講談社などを創業した人物伝を中心に、明治の出版文化から現代の広告事情まで幅広く書かれたものであります。流通はもちろん、紙や印刷や製本の歴史まで知る事ができます。
なにしろ出版・広告業が賤業(!)といわれていた大昔の話ですから、勉強になるうえに無類の面白さ。歴史を語る中に人物の息遣いが聞こえるようです。こういうものを読むと、現代が何を得て何を失ったかを考えずにはいられません。
やはりインテリではなく、職人がお好きのようで、前述の『暮しの手帖花森安治も登場しています。『室内』との共通点と相違点に人間の違いがあらわれていておもしろい。
そして、山本翁は世界の松下だろうが電通だろうが朝日新聞だろうが全く臆することなく批判します。痛快です。知識人の権威であるところの岩波書店を「国語の破壊者」などと彼以外に誰が言えるでしょうか。

出版・広告業界に生きる人の必読の書と思われますが如何。
(2006.3.1記)


>追記
夏彦翁いろいろ読んでいます。
こちらもぜひ。