an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

桂離宮

桂離宮に行ってきました。

・・・と一言でサラッと書いてしまったが、ここは気軽に「じゃ、今週末の土曜日にでも行こっか!」というわけにはいかんことは皆さんご存知のことと思う。
事前にしかるべき手続きを踏んで申込み、当日は身分証明書を提示し、時間通り言われたとおりにおとなしく参観し、1時間ぽっきりでとっとと帰らなければならない。
なんと高飛車な、とつい思ってしまうところだが、貴重な文化財のガイド付き参観が無料である。エラソーなのか腰が低いのかイマイチわからぬ(笑)。
まずはHPで予約のためのカレンダーを見ると、3ヶ月先まで×印(←満員御礼)でびっしり。予想外の盛況ぶりに感心しつつも某平日の午前中に「あと二人」枠を発見し、ちょいちょいと入力を済ませた。今日びは何でもネットですぐ済んでホント便利ね〜と鼻歌まじりで手帳に日時を書き込んでゴキゲンでいたところ、「あのね、この「あと二人」というのは、抽選に参加できる人数なの。そんでアンタは落選したからまた今度ね」的なメールが届き唖然。
結局「往復はがきで申込む」という、従来からの辛気くさい方法で参観にこぎつけるまで二ヶ月かかりましたわい(笑)。

さて、そんな根気がいる手順を踏み、有給休暇までとって(笑)足を運んだのには訳がある。京都に住みながら名高い桂離宮に行ったことないってのも、もったいないかもな・・・くらいのことは以前から思っていたが、よし、行くか!と動くきっかけになったのはこれだった。

ひらがな日本美術史〈4〉

ひらがな日本美術史〈4〉

「正直言って、びっくりした。「すげェ!」と思って興奮した。」という彼の桂離宮探訪記が抜群におもしろかったのである。橋本治も以前は「なに気取ってんだい」と斜に構えていたらしいのだが、行って見て、それはそれは驚いたそうだ。
桂離宮がこんなだって、誰も言ってないよね?」という幕開けからわくわくしつつ追ってゆくと、我々素人にも実にわかりよく、日本美術史の流れを俯瞰しながらディテールの一つ一つを、興奮さめやらぬ調子で美麗な写真とともに語りつくしてくれる。
さらに、「これを作った人は、たぶんこう考えたんだよ」という発想の飛躍はまさに橋本治の独壇場、何か理屈を超えた感情の振動がビシビシ伝わってきたのだ。
あまつさえ「桂離宮とは、「人間が美なる人為を生み出す時、自然に対してどのような態度を取るべきかを考えさせるもの」なのである。」などと言われた日には、自分の目で確かめずにいられようか。

「ここは歩くたびに景色が変化します。動いて見ることを前提に作られているのです。写真を撮るのもよろしいが、まずはぜひ、それを体感してください。」柳葉敏郎を白髪にしたような感じの、皺深くやや険しい面持ちのガイドさんの指示に従い慎重に庭園内に足を踏み入れる。ここでまた早速『ひらがな日本美術史』の次の一節などが浮かんでくる。

桂離宮を「日本美の典型」というのは間違いである。桂離宮以外に、こんな志向をするものはない(と思う)。それを言うなら、桂離宮は「日本美の異端」である。
だがしかし、桂離宮は「最も典型的に日本の美意識を語るもの」ではある。
それでは、桂離宮が典型的に語る「日本の美意識」とはなにか。
それは、「静止しない」ということである。

     
     

      


      
      


その例として絵巻物、扇、屏風、襖絵、連歌俳諧などを挙げながら「建物のくせに、桂離宮は静止していない。見る位置を変えられたら、その瞬間に表情を変える。ありとあらゆるところに創意が隠されている。」という。
確かに園内は傾斜や起伏が案外多く、木々の茂みや水の流れ、橋や灯籠(←ちっこくてキュート!)、そしてもちろん茶室など建物の配置の按配によってそれぞれ違う印象の調和をもたらす。ここですでに「わ、キレイ。モダンだし品があるなあ」とうっとりするわけだが、桂離宮のすごさはそういった表層だけでなく細部にあるのだった。
例えば柱の素材や色味、敷石の大きさや並べ方、雨樋の形状、襖の引手の形、複雑な意匠をみせる名高い「桂棚」・・・凝りに凝った仕掛けが随所になされているのだが、うっかり見逃すほどのさりげなさだ。
とても粋を見極めたとは言えないが、「・・・ようわからんけどすっきりして気持ちのいいところやなあ」くらいの気分にはなれたので上出来かなと思っている(笑)。

そして忘れてならないのはガイドさんの活躍ぶりだ。
白髪で皺っぽい柳葉氏(仮名)は後方の人にも聞こえるよう始終大音声、強面ながら冗談をまじえて快調にどんどん説明してくださる。大声というよりもはやシャウトですね。宮内庁職員なのにシャウト(笑)。しかも聞き苦しさ皆無、すばらしすぎます。
どうやら他にも「名物ガイド」がおられるらしく、「次回もあの方で」とのご指名もあるのだとか。
はい、私は次回も柳葉氏(仮名)でお願いしたいです。

氏いわく、桜の時期も紅葉の時期もむろんおすすめであるが、雨天下では池の塵芥がすべて底に沈んで水が澄むのでそれは美しいとのこと。
皆様、ぜひ梅雨時の桂離宮へおこしやす。



(2012年10月25日記)