an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

九月の倦怠

・・今月は誕生月である。
都合の悪いことはできるだけ考えないようにするという逃避癖がすっかり板についたとはいえ(苦笑)、夏の終わりの寂しさとともに年齢を意識しないわけにはいかず、そこへ冷たい風が吹き抜ける・・それが9月。
TVなどで話題になるタレントがいつの間にか全員年下、という状況にはとうの昔に慣れたが、ついこの間まで父親並に歳のはなれたおっさんの集団だと思っていたプロ野球選手を今や「君付け」で呼んでいることを思うと(今岡君、遅ればせながらスタメン復帰おめでとう!)なにか感慨深いものがある。・・・そうこうしているうちに年下の人間が芥川賞を取るようになった。うっかりしていると学者が年下だ(東浩紀さん・・・アナタ年下だったの・・・)。
今度はなんだ。・・・大臣が年下なのだった(笑)。
(ところで少子化対策って一体どんな仕事してるんでしょう?謎。)
・・・このように、年下にしてすでにナニゴトかを成し遂げたような方々を見る度、もうちょっとなんとかならんのかね、と自分をゆるめに叱ってみたりする・・・そんな9月。


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<狐>こと故・山村修さんの書評本がとても面白い。

もっと、狐の書評 (ちくま文庫)

もっと、狐の書評 (ちくま文庫)

『もっと、狐の書評』『<狐>が選んだ入門書』『書評家<狐>の読書遺産』・・・どんどん読んでいる。本当に本が、読書が大好きなんだなと思わせるやさしい文章は、心地よく知的好奇心(・・・あるのか?笑)を刺激する。何をどう伝えるか、何を残して何を捨てるかのバランス感覚がものすごくいい人だと思う。エッセンスを凝縮すること過不足なし。しかもセレクトされる本はいずれも手ごわい曲者ぞろいでわくわくする。

絶望という言葉の反対語は、希望などというしゃらくさい言葉ではないとあらためて感じました。なにかもっと希薄で、目に見えないヒラヒラしたものをあらわす言葉がふさわしい。
              (金子光晴『絶望の精神史』の書評より)

こういう感覚、私はとても好きだな。
あえて欠点をあげるなら、あまりに書評が素晴らしいので紹介してくれたその本を読まずして満足してしまうところだ。
・・・これは<狐>にとっては不本意でありましょう(笑)。


久しぶりに、小説。
◆『The Road』コーマック・マッカーシー

ザ・ロード

ザ・ロード

父と小さな息子が、緑が絶え人が人を喰らうような不毛の地を、生き延びるために南へ南へと逃げるように歩いていく、ただそれだけのストーリーである。
荒廃した近未来を舞台にしたサバイバル小説はめずらしくもないが、きりきりと音がしそうなほどの硬質な文体で書き進められていくこの物語は、エンタテイメントとしての興奮はまるでなく、考えたくない、見たくない凄惨で陰鬱な場面の連続だ。それだけに、時折交わされる父と息子の短い会話によるかすかなぬくもりが、今にも消え入りそうな目に見えないヒラヒラした何かが、いっそうはかなく、愛おしく感じられるのである。
・・・山村さん、「絶望」の対極にある言葉をここに、この小説の中に見つけましたよ。
とても読みやすいとはいえないけれど、息子を持つお父さんに、これからお父さんになる人に、なりたいと思っている人に、親と子について考えたい人に、おすすめいたします。
コーマック・マッカーシーは映画『ノーカントリー』(原題『No Country For Old Man』)の原作者でもある。この小説も映画化がすでに決まっており、父親役は、今のりにのっているヴィゴ・モーテンセン(おおおっイメージぴったりだっ!!)、見逃せないものになりそうだ。

(2008年9月25日記)