an-pon雑記帳

表現者と勝負師が好きです。

Twitterとか不倫をめぐる物語とかケーキとか

一言も呟いていないけれど、このところTwitterを楽しんでいる。
何が面白いと言って、著名人がどこの馬の骨な素人(セミプロかも)相手に激烈な口論を繰り広げているところだ。(そんな場所他にないですよねえ・・)
その筆頭が作家の佐藤亜紀とジャーナリストの日垣隆で、売られたケンカはもれなく買います喧嘩上等!の姿勢を貫いており、一時も目が離せない。口論は最終的に「頭の悪いヤツはこれだから」「オバサンはこれだから」的な身も蓋もない冷笑混じりの罵り合いになってフェイドアウトしている模様。
不毛なことと承知しながらも、腹立って書かずにいられないんだろうなあ。


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一度レビューでも取り上げたのだが、中村うさぎという物書きがいて、ブランド品とホストと美容整形に大金をつぎ込んだ挙句デリヘル嬢になって己の商品価値を確認しようとしたりする、なんだかもう途方に暮れるくらい難儀な人で、私はほとんど病者の一症例か珍獣を眺めるかのごとくに彼女を追っかけているのだが、ある時、コラムの中のこんな一文に目がとまった。

性的に奔放といえば聞こえはいいが、罪悪感もなくそれをやるのは厚顔無恥だ。不倫にだって仁義を求めるべきではないか。

今の時代、不倫の一つも軽くこなして人生楽しまなきゃ!・・・くらいのことは言いそうだったので、へえ、と思った。マトモなこと言うじゃん。
いろんなものの考え方や生き方があって、これだけ価値観が多様化したりパラダイムがシフトしちゃったり目まぐるしい中にいると、不覚にもこういうシンプルな発言に胸を突かれることがある。厚顔無恥でない多くの人は「罪悪感」を持つ、つまり大変に苦しいものであると。だからこそ、時に人の心を震わせることもあると。
・・・ええと、なんだか妙な前置きになりましたが、ここで不倫なるものの是非や仁義とは何ぞや、などを語るのはもちろん私ごとき無粋者の任ではなく、そういうものを描いた本を紹介してみようという寸法なのである。まずは大物、こちらから。


◆『存在の耐えられない軽さ』ミランクンデラ

「軽さと重さとをめぐる手品のやうな概念操作が、わかつたやうでわからなくて、どうも困る」(丸谷才一『ロンドンで本を読む』より)という一面も確かにあったし、哲学的示唆に満ちた非常に理知的な小説だった印象もある。
たとえば主人公のトマーシュが、かけがえのない存在(テレザ)がありながら女漁りをやめることができないのは何故なのかを解説される部分などは、テレザに完全に感情移入していたにもかかわらず、「なるほど、一理ある。」とすとんと納得してしまった。
逆に「一度は数のうちに入らない」というフレーズや「重さ」「軽さ」を随所に挿入した有名な一連のくだりは、どうにも詭弁を弄しているようにしか思えず、微かな違和感がいつまでも残った。そう、この小説は、ときに人の心のうちでさえも「なぜならば・・・だからである。」と、ぴしっぴしっと断定しながら進行していく場面が少なくなく、読者の自由な揺曳を拒むようなところがある。私にとっては息苦しいくらいだった。
しかしさすがに物語自体が面白くて最後までひきつけられるし、今まで考えたこともないようなことを次々と提示される刺激があって、読み応えは充分だった。
池澤夏樹さんの「世界文学全集」での新訳はどんな按配だろうかとちょっと気になるところだが、もう一度読むのはちょっとしんどいな・・・


◆『たまもの』神蔵美子

たまもの

たまもの

・・・男は1週間後に結婚をひかえた婚約者を捨てて彼女のもとへ走った。
その後彼女はまた別の男と恋に落ちた。・・・相手の男は30年連れ添った妻子を捨てて身一つでやってきて彼女と暮らし始める・・・
まあ広い世の中、そういうこともあるでしょう・・・と通り過ぎようとしているそこのあなた、最初の男が坪内祐三、後の男が末井昭だと知ると、えっ?えっ!!・・と身を乗り出したくなりませんか。むろん私は身を乗り出しました。
表紙に自分の泣き顔を堂々と持ってくる神蔵さんのあからさまな自己愛には辟易させられつつも、切々と語られるモノローグは、生々しい写真の効果も絶大で現場に居合わせているような切迫感があって読みだすと止まらない。
いい大人たちがまるっきり無防備で、裸足で駆け出すような切実さと苦しさがある。
今、「恋とはなんでしょう」と聞かれたなら、この本を差し出すかもしれない。


田辺聖子とか向田邦子とか
田辺聖子は不倫の小説をたくさん書く人だが、愛嬌があってどうにも憎めない男が登場して微苦笑を誘うようなコメディタッチで描かれることが多い(・・そのくせ不意打ち的にすごくエロティックなものを書いたりもするので油断ならんのだ、この人は)のに対して、向田邦子さんの「不倫もの」は暗いです、はい。それにこわい。空気を微かに震わせるような、日差しにゆっくり差し込む影のような暗さ。
まずは『思い出トランプ』からどうでしょう。

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最近読んだ中では、文学への熱い思いと博識ぶりに目を見張る往復書簡『手紙、栞を添えて』(辻邦生水村美苗)、映画やスポーツを艶っぽい文章で楽しませてくれるコラム『女の足指と電話機』(虫明亜呂無)が面白かったです。おすすめ。

手紙、栞を添えて (ちくま文庫)

手紙、栞を添えて (ちくま文庫)

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スポンジケーキやシュークリームなどは、長時間手間暇かけて作ったところでいまひとつ旨くなくてがっかりするものだが、このテのバターがっつりパウンドケーキはとても簡単で(・・混ぜて焼くだけだもんな)私のような者でもおいしく仕上がり、大変しあわせな気分になります。


      


      

今回は甘さ控えめヨーグルト&レモン入りにしてみました。
(製作時BGM:AphexTwin

(2010年1月31日記)